「ミークス・カットオフ」は2010年の西部劇です。19世紀前半に起きた実際の出来事に基づいています。主演は様々な受賞歴のあるミシェル・ウイリアムズ(父親は投資家のラリー・ウイリアムズ)です。
3組の開拓民の家族がスティーブン・ミークという案内人を雇って西部を目指します。「近道」を知っているというのです。しかしミークが迷っているのではないかという疑いが徐々に生まれて来ます。
この頃の西部への移動は大きな危険を伴うものでした。有名なものでは1846年の「ドナー隊の悲劇」があります。カリフォルニア州を目指す90人の開拓団が「近道」を選択します。しかしそのルートは過酷なもので、砂漠や山脈、大雪といった困難に見舞われます。食料も無くなり最後は家族の人肉も食べたのです。最終的に半分近くの開拓民が死にました。この映画のミークも実在した人物で、実際に開拓団が立ち往生したという記録が残っています。
映画で彼らは一人のインディアンと遭遇しこれを捕えます。自分達を追って来たのでしょうか? 他にも仲間が居るかもしれません。言葉は通じません。汚ならしく奇妙な服を来ており行動も理解できません。一行は恐怖と憎悪を抱きます。
彼を殺すべきかどうかで迷います。水も足りなくなって来ました。この絶望的な状況で彼らは「ひょとするとこのインディアンが道を知っているのではないか」と思い始めるのです。彼らは賭けに出ます。まったくコミュニケーションが成立しない彼に従う事を決めたのです。
本映画は西部開拓民の過酷な状況を描いているだけでなく、現代にも通じるメタファーとなっています。
我々は非常に限られた条件下で判断しています。まったく希望や未来のない状況さえあります。そういった状況では、たとえ今より悪くなる可能性が高くても、人は一か八かの賭けに出てしまうのです。
この映画に登場する女性達も、アイルランドの絶望的な状況から逃れるために、遥かに年上の男と結婚し、未知の土地を目指すのです。そこで豊かな生活が送れると信じて。
胡散臭い案内人を雇って希望の地を目指します。何も考えずに夫婦でまぐわい旅の途中で妊娠してしまいます。やがて状況が絶望的になると、会ったばかりのインディアンが「道を知っているはずだ」と思い込もうとします。
これは我々そのものです。絶望的な状況で右往左往するネズミは地獄へと至る道であっても飛び込んで行ってしまうのです。少しでも未来を変えてくれそうなら、どんな人でも付いていきます。
絶望的な未来。飢えで困窮する毎日。思考力の限られた人々。このような条件が重なると、危険な人物や団体が必ず現れてしまうのです。そうして大衆を更なる地獄へといざなうのです。
大衆は、今の苦しさを忘れさせて呉れるなら誰だっていいのです。それがたとえ死に至る道であっても...