現代はあらゆる可能性を考慮するべき時代となりました。単純な予測に従って計画し行動する方法は通用しなくなって来てきているのです。新しい生き方が求められています。
よく相場で予想が外れた時に、人は「買っておけば良かった」「売っておけば良かった」と言います。しかしこれは全く意味の無い事です。そうならない未来も確かにあったからです。
また相場が終わると必ず報道機関がもっともらしい相場の動きを解説したコメントを発表します。これを鵜呑みにするのは大変危険です。鵜呑みにすると、解説された理由で相場が動いたのだと勘違いし、次回はその理屈に基づいて自分が動いてしまうからです。しかし実際は、この解説コメントは後知恵バイアスに基づいた意味のないものなのです。
これらは「絶対確かな真実があり、それを事前に予想できたはずだ」という人間の誤解から来ています。しかしそれはあり得ないのです。この予想に基づいて行動するのは完全な誤りです。
今までのように単純な線形予測で未来を測ることは出来ません。たとえば横軸に時間、縦軸に売上というグラフで、右肩上がりに売上が上がっていくという簡単な世界ではないのです。
多勢についておけば安心というものでもありません。世界は正規分布に従うような単純なものでは無いからです。世の中の多くはべき乗分布であることが多く、可能性が少ないと思われる事象が大きな影響を及ぼすことがあります。いわゆる「ブラック・スワン」です。誰もが「戦争は起きない」「暴落は起きない」と思っていた時に、その予想が外れる事があるわけです。
たとえば第一次世界大戦が始まった時に、誰もが後に「世界大戦」と呼ばれる大きな戦いになるとは思っていませんでした。しかしその時、世界は臨界点を超えていました。科学技術は進歩し大量生産の時代に突入し総力戦のフェーズとなっていたのです。戦争の質が変わったのです。
複雑系という考えがクローズアップされています。「バタフライ効果」により未来は大きく変わってしまいます。誰かが流したSNSの噂で金融相場の流れが変わり、多くの人々の人生を左右してしまうかもしれません。
このような時代ではあらゆる可能性を考慮に入れることが必要です。
たとえば東京から大阪に荷物を運ぶ依頼を受けたとします。飛行機に乗る。新幹線を使う。クルマで運ぶ。このような手段が考えられます。詳細に状況を分析し「今回はクルマを使って下道で荷物を運んだ方が良い」と判断し実行したとします。
依頼者は「なんだクルマで移動したのか。安上がりで済んだからカネを返してくれ」と言うかもしれません。あるいは「飛行機は無事に飛んでいた。なぜ飛行機を使わなかったのか」と言うかもしれません。
しかし飛行機が無事に飛ばない未来も確かに存在したのです。結果的に収束した未来がそうではなかったというだけです。依頼する際も、仕事をする際も、こうした選択肢の検討とリスクテイクを依頼し引き受けているという認識を持つべきです。
これは「経路積分」の考え方に基づいています。物理学者のリチャード・ファインマンが生み出したものです。量子力学の定式化に大いに貢献しました。AからBへ行くあらゆる経路とそれぞれの確率を考慮に入れた計算式です。結局、経路はひとつに収束するはずですが、全ての選択肢を総合的に考慮するべきなのです。
これからは次のような能力が大事となります。すなわち世の中を読み解き、どのような選択肢があるかを探り、リスクを分析し、適切な対策をとるという能力です。
「アポロ計画」においてNASAはウォーターフォール型の厳格なプロジェクト管理システムを生み出しました。たとえばPERT法といったものです。これらは画期的なものでした。しかし既に時代遅れになっています。品質管理の分野でエドワーズ・デミングが考えたPDCAというサイクルも役に立ちません。遅すぎるのです。
現代のソフトウェア開発でもウォーターフォール型のプロジェクトが上手くいった例を見た事がありません。コストを超過し大赤字です。従業員や下請けに泣いて貰わないといけません。極めて定型的なプロジェクトでないと成功しないのです。現在はアジャイル型やプロトタイプ型、リーン・スタートアップといったものがほとんどです。
とはいえ実際のところは、プロジェクトが大規模になればなるほどウォーターフォール型で計画を立てざるを得ません。期限は納期から逆算して引かれるだけです。そうして遅延とコスト超過を繰り返すのです。
プロジェクト管理でもリスク管理の考え方はあります。しかし使える予備費はかなり限られています。すなわち想定外の出来事には対応できないのです。そして想定外の出来事はしばしば起こります。
複雑系の世界に生きる我々は、想定外のリスクを考慮することに大きな手間と時間を掛けるべきなのです。それではその対策はどうしたらよいのでしょう。
金融の世界では既に複雑系の考えが広まっています。従来のポートフォリオ理論も通用しなくなって来ています。債権を半分、株式を半分というのが典型例です。
今では、想定外のリスクに対応しつつ、逆に想定外のリスクで積極的に儲けるという考えが主流です。ナシーム・ニコラス・タレブのいう「反脆弱性」です。
たとえば、ポートフォリオの多くをインデックス投資に相当するような広範な株式や債権で運用しながらも、オルタナティブ投資として仮想通貨などを組み入れるといった具合です。
つまり大きな変動があった際の被害を最小限にする一方で、同時に大きな変動で儲けるという手法です。これが「非対称の投資」と呼ばれるものです。
それ以外にも想定外の出来事に対応する仕組みが幾つかあります。例を挙げると先物やオプションなどです。利用者はリスクヘッジをする側と、リスクテイカーに分かれます。
これらは分かりやすい言葉でいえば「保険」です。保険は買い手と売り手に分かれます。リスクヘッジ側はコストを支払うことで、将来考えられる損失を回避します。一方でリスクテイカーは将来のリスクを引き受ける代わりに利益を得ます。
このような複雑なリスク管理の手法が、これから金融以外の世界にも浸透していくのです。取り引きのあらゆる場面でこのような「保険」が利用されるのです。従来のような「火災保険」や「損害保険」といった単一のものではなく、もっと高度で柔軟性のある「保険」です。
従来のようなモノやサービスの製造と販売は、機械生産やAIにとって代わられつつあります。人間の居場所は無くなるかに見えました。しかしそうではありません。
人間はこれから、世の中の動きを的確に読んだうえで「リスク管理と柔軟な対処法の提案をする」という仕事に居場所を移していくのです。
ここでは暫くの間、わたしたち人間がAIの主人で居ることが可能なのです。