人間は長い歴史の中で、思考を外部に委ねる仕組みを発明してきました。 その最も身近な例が「計算」です。
1.計算は思考か
複雑な計算をしているとき、自分自身が思考していないような違和感を覚えることがあります。それも道理です。
2.思考の外在化
数式や記号体系は偉大な先人によって発明されたものであり、その力を借りて「思考」しているのです。これはまさに思考の外在化です。
数式は人間の負担を減らし、効率よく思考を進めるための道具です。各々の工程を間違いなく進めれば、誰でも同じ結論に至ります。直観では到達できない抽象化も可能になり、より複雑な構造を扱えるようになります。
3.外在化のデメリット
しかしデメリットもあります。思考の主体性が弱まり、理解しないまま計算する人もいます。数式に頼り過ぎることで、自然な認知の枠組みから離れる可能性もあります。
4.思考の外在化は数学に限らない
思考の外在化は数学だけではありません。人間は文字を発明し、記録するようになりました。図形を使うことを覚えました。算盤のような計算器具を作りました。数を発明し、幾何学、代数学、解析学へと抽象化を深めてきました。コンピュータを作り出し、ついに機械が学習・思考をするようになりました。
5.人間による方向付け
それでも人間が全てを丸投げすることはありません。数学においても生成AIの利用においても、「何をやるのか」「どういう方向で進めるのか」を最初に人間が決めなければなりません。このステップで躓くと、すべてが失敗に終わります。ではどうすべきでしょうか。
6.人間がやるべきこと
「機械が全てをやってくれるから無知で良い」とはならないのです。
量子力学には「黙って計算しろ(Shut up and compute)」という言葉がありました。「計算すれば予測できるんだから余計なことを考えるな」というわけです。繰り返し計算し、先人の道を辿ることで、ある種のセンスが身につくこともあります。しかし人によっては創造性が育たないこともあるでしょう。
現代では、負担を減らしながら、方向性を決められる才能が必要です。
7.抽象化・視点の転換・問題設定
基本的な「型」を覚えるだけでなく、抽象化し、視点を変え、問いを立てる能力が求められます。生まれ持ったセンスもあります。「違和感」を大切にし「なぜ?」という問いを繰り返す人。抽象化が好きで構造を見抜ける人。ひとつのことにこだわらず視点を切り替えられる人。こういった人は伸びが速いでしょう。
「意味のない世界」*1だからこそ、主体的に問いを立てるのです。
8.言語の大切さ
これらの能力は言語によって可能になります。生成AIを利用するには、高度な対話能力が必要です。
言語は概念を操作し、抽象化し、視点を切り替える道具です。しかも汎用的です。あらゆるものを記述できます。数学ほど厳密ではありません。しかしその緩さが逆に武器となります。高度になり過ぎた数学と異なり、言語はひとりだけで完結する、最高の思考ツールです。
9.人間に残されたもの
方向付けこそは、広範な知識を背景にした直観の働きであり、外在化できない人間固有の力なのです。
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本稿は個人的見解です。