「華麗なる賭け」(The Thomas Crown Affair)はスティーブ・マックイーン主演の犯罪映画です。時代を先取りしたアンチ・ヒーローを描いています。1968年の映画です。
主人公のトーマス・クラウンは大富豪です。ボストンに住み別荘も持っています。仕事は当時としては最先端だった為替の裁定取引(アービトラージ)です。
しかし彼は飽き飽きしていたのです。週末はポロ競技やグライダー操縦を楽しみ、別荘近くの海岸でバギー車を運転します。
それにも飽き足らず、彼はスリルを求めて銀行強盗に手を染めます。緻密な計画に沿って用意周到な準備をします。決して自分では直接手を下しません。互いに見知らぬ雇われ人が、トーマスの指示のもとで別々に動いているだけです。手下のうちの一人は化粧品のセールスマンで、醜い妻や息子と不潔な家で暮らしています。彼らの惨めな生活がトーマスの生活とは対照的に描かれています。
まんまとカネをせしめたあと、トーマスは別荘でカクテル「ボストン・クーラー」で祝杯をあげます。普段は冷静な彼が足をバタバタさせて喜びます。由緒あるボストンの街で巨額のカネを盗むことに成功したのです。
トーマスは、全てを手に入れていました。カネ。モノ。地位。女です。でもそれだけでは満足できません。もっと刺激が必要なのです。「何のためにこんな事をするのか」と尋ねられて、彼は「自分とシステムのためだ」と答えます。
つまり彼はこの世界をゲームと捉えているのです。ルールを熟知した上で人々を手玉にとり褒美を得ます。目的はカネではありません。危険を犯してシステムを出し抜くプロセスを冷静に楽しんでいるのです。彼は独自の信念とモラルを持っている人物です。
彼はリスクを恐れません。映画ではグライダーで宙返りをするシーンがあります。大変危険な行為です。当時は最先端であったバギー車を砂丘で運転するシーンもあります。VWのエンジンを積んでいます。シートベルトもロールバーも無いのに隣にフェイ・ダナウェイを乗せてかなり無茶な運転をしています。スティーブ・マックイーン自身も危険を好む俳優でした。
システムの中に逗まるのは容易です。しかし得られるものは限られています。一方でシステムから完全に外れると犯罪者となります。
最大の利益を得られる場所は、システムと外側との間にあるギリギリの境界線なのです。