日本人というのは実に軽々しく言葉を扱う人々です。
例えば尊敬語や丁寧な言葉がしばらくすると相手を侮辱するものに変わってしまう事が良く在ります。「貴様」「御前」などがそうですし、「ご愁傷さまです」というのは時に極めて失礼な表現となります。「遺憾」というのも傲慢なイメージをもたらす言葉です。
これは日本人がよく考えずに、あるいはよくよく考えた上で、表面的に言葉を使う習慣から来るものです。その為、尊敬や哀悼を示すものであった言葉の価値が急激に逓減し陳腐化していくのです。
報道や広報、人々の会話でも「気をつけましょう」「頑張ろう」等の空しい言葉で溢れかえっています。「愛」も日本では極く軽いニュアンスで使われます。強姦も「恋愛」ですし、経済的困窮による子殺しも「愛情」です。良く使われる「最大限」とはどの程度の量を示すのか全く意味不明です。これでは「死ぬ気で頑張れ」というのと同じです。とりあえずこうした曖昧な言葉を吐くことによって上の責任は果たされ、後は聞いた本人の自己責任となります。
日本人の会話を聞いていると、創意工夫や感情交流がほとんど無く「先生、先生」と相手を持ち上げるような褒め合いや、其処に居ない誰かを陰湿な言葉で罵るようなものばかりです。ビジネスメールでも「お世話になっております」から始まり「～させて頂きます」「以上よろしくお願い致します」など意味の無い言葉で埋め尽くされています。
「言葉」という人間だけが使える「道具」を駆使し、人と真摯に向かい合うとか、真理を探ろうという試みはせずに、日本人は他人を騙し陥れたり、自分を優位にするための小手先のテクニックとして使っているのです。議論においても馬鹿の一つ覚えのように「反例をひとつでも挙げる」というのに固執し、互いに「論破！」等と言いながらけなし合っています。
外部からの講演者に傲慢な態度で質問をする日本人もいます。「私はこれも知っている、あれも知っている、これについては当然こういう事だと思う。念の為に伺うがあなたはどう思われるか？」といった調子で詰まらない質問をしてくるのです。質問でも議論でも何でもなく、これも単に周りの人間に自分を印象付ける為のパフォーマンスに過ぎないのです。
現代の多くの思想や科学、技術の基になっている様々な言葉が、他の言語と比べて体系的になってなかったり関連性が薄いのも日本人の思考力の劣化、理解の浅さにに拍車をかけています。英語だと「形相」（"form"）、公式（"formula"）、形作る（"form"）、フォーマット（"format"）というようにそれぞれ繋がっていますが、日本語はおおむねそうではないのです。最小単位としての言葉がいい加減だから、大した考えを組み立てられないのです。
「隋書倭国伝」には日本には文字が存在しなかった事が記されていますが、日本人にとって文明を構築し継承する為の言葉体系はさして重要では無かったのかもしれません。彼らにとっての文字と言うのは便利な道具か、あるいは魔術のようなもので、例えば今でも言葉尻を捉えて「縁起が悪い事を言うな！」「言霊だ！」とかいって騒ぎ出すおかしな人間がうんざりする程居ます。
クイズやノウハウのような小手先の技が大好きな日本人は一番重要な基礎部分については考えを巡らせず、そそくさと演習や実用問題に移ってしまいます。「余計な事は考えずに教えられたとおり覚えればいいんだよ」と言われ、直ぐに行動に移れるのがスマートだと思っています。ところが根本的な所を理解していない為、早晩行き詰ってしまうのです。
劣化の激しい近頃の日本人は、もはや自分がどういう衝動に突き動かされて、何をやっているのか、そしてそれがどういう結果をもたらすかも分かっていないのかもしれません。こんな人達に任せておいたら日本は20年も経たない内に本当に野蛮人の国になってしまうでしょう。まずは自分のレベルを把握しておかないとそれ以上先に進むこともできません。日本の衰退は科学だけでなく言語体系の根底にある、思想や哲学をおろそかにしてきた当然の帰結です。
