日本人は現実をありのままに見ることができません。ありもしない幻影を追い求めて非現実的な行動をしてしまうのです。そうして相場のみならず仕事や人生でも失敗してしまうのです。
雇用統計を受けて米国の株式市場が大きく下げています。ドル円もです。日経平均先物も下げており、週明けの日本市場の動きが注目されるところです。リアルタイム検索をすることによって、個人投資家の状況を観察することができます。
シングルマザーが追証で苦しんでいます。「現金がありません。どうしたら良いでしょう。とりあえず保育園に子どもを送ってから仕事へ行きます。今日は華金なので楽しみ」と発信しています。東京エレクトロンやレーザーテックといった半導体銘柄を売り買いしているようです。
今年から投資を初めたという男性は「いま追証を必死で勉強しています。分からない言葉はネットで調べながら取引しています。YOUTUBERの◯◯さんの説明が参考になりました。株クラと繋がりたい…」と書いています。百株単位で取引が可能で株式分割もした三菱重工の株を、わざわざ千株単位で売ったり買ったりしています。
8月の暴落で五千万円の持ち金を失ったサラリーマンが、ついにマイナス1,500万円になったと告白しています。損失ランキングにも載ったと自虐的に書き込んでいます。それなのにまた借金をしてカネを注ぎ込む次の通貨を探しています。
アニメや猫をアイコンにしている人達がこのように書き込んでいる姿を見ると、なんとも奇妙な感覚を覚えてしまいます。よく分かっていないのに業界用語を使いたがります。文章は言葉足らずで、顔文字を織り交ぜた幼児性を感じさせるものです。貧乏人ではありません。頭も普通以上でしょう。周りを見渡しても、このような事をしているのは人一倍勉強熱心で仕事熱心な人々です。
FXや株に手を出していなくても、外貨建て保険に入っている人は大勢います。しかしながら保険と投資が両立するわけがありません。わざわざ保険をギャンブルにしてしまっているのです。素直に掛け捨て保険にしていればいいのです。
そもそも国民皆保険制度があるのだから、民間の医療保険のほとんどは不要です。それなのにさもしい根性で「保険をかけながら儲けてやろう」と考えています。「社会人になったら保険に入るべきだ」と頭から信じ込んでいます。日本人は命ぜられた範囲では勉強熱心ですが常識を知らなさすぎです。
投資や投機は余裕資金でやるものです。けれども日本人は「子どもの教育資金に」と云った理由で、ライフイベンドに合わせて危険な投資に手を出してしまいます。投資において計画に沿ったリターンが得られる訳がありません。私利私欲でないからと云って、投資が正当化されるわけではないのです。ボーナスを含めた給料や退職金を当てにして住宅ローンを組むのも危険な賭けで、ギャンブルと同じです。
彼らは幼稚でありながらも危険な賭けに全てを捧げてしまっています。信用取引を、元手が少なくても大きな取引をさせてくれる「ありがたい」仕組みであり「使わなければ損だ」と考えています。
普通に生活していれば良いものを、わざわざ足を踏み入れてはならない領域に進んでいます。長期目線で株を買っているのではなくスキャルピングやデイトレードです。1日のうちに利益を確定するのです。役所や会社に通いながらそんな事をしています。
無知や損失を公開する彼らの心情には興味深いものがあります。誰かとの会話ではなく、ほぼ独り言となっています。日記感覚なのでしょうか。不思議です。つれづれに感じたことや思ったことを、都度、言葉にしておきたいのです。リアルな人間関係では本音を隠し、ネットではありのままを吐露します。
日本では誰かに頼ることができません。すべて自己責任です。一人で行動し一人で責任を負います。そうはいっても誰かと繋がりたいというのが人間です。X(旧ツイッター)というのは、日本人にとって、匿名を保ちながら人と緩くつながる便利な道具なのです。そこには思想などはなく、その場その場に応じた当人の心の動きを書き連ねているだけです。見ている人々も雰囲気に応じて賛同したり反対したりしています。
そうはいっても、彼らの相場への執着も興味深いものがあります。相談する人はいないのでしょうか。単なるギャンブラーとして片付けられないものがあります。虚しい宮仕えの一方で、相場に人生の意義を見出しているのでしょうか。彼らは普通の日本人以上に勉強熱心なのです。しかし方向が間違っています。一生懸命に破滅へと向かって邁進していく姿は、太平洋戦争末期の日本人を思わせるものがあります。
彼らの心は幼児のままです。強迫神経症的で、何かに執着すると全てを忘れてしまいます。本当は心細くて誰かに頼りたいのに頼れません。結局は全てを失い破滅を受け入れます。そうして何も言わずに静かにこの世を去っていきます。
悲観的に考えて楽観的に行動するというのが、戦略的な行動における要諦です。しかしながら日本人は肝心なところで楽観的です。一方で実際の行動は悲観的で腰が引けています。慎重過ぎるのです。後手後手でやってはならない手ばかり打ちます。けれども変に楽観的で自分を正当化するので、その間違いをただす事ができません。こうして長期的に見た場合には、日本人は失敗することになります。
そもそも政府が国民に投資を進めるなんておかしな話ではないでしょうか。その一方で海外の機関投資家にも「日本に投資しろ」と言っています。長期的に見れば株式相場はWin‐Winになりますが、短期では機関投資家の餌食になるだけです。しかも日本人は短期的にしか考えられないのです。
NISAやiDecoといった仕組みは別に良いとも悪いともいえません。非課税になる枠組みがお得なだけです。それが結果として良いものになるか悪いものとなるかは個人に依ります。
こうした日本人の勉強熱心さや、のめりこみやすい執着性、諦めの良さなどは、別のところに振り向けさせるべきです。国が音頭をとって投機を勧めている場合ではありません。普通に働いて生活できるような環境を整えるべきなのです。
「これからの日本は経営と投資で食っていく」「個人も起業や副業、投資で食っていきなさい」「カネがなければ老後は暮らしていけません」「税金はどんどん増やします」。これでは「政治家がまともな仕事をしていない」とそしられても仕方がありません。
日本人はもっと堅実なところで頑張るべきなのです。職人や工員のように、一人でひたむきに仕事に向き合うような世界が合っています。
日本人の夢は現実からかけ離れています。投資の世界はそんな彼らのたまさかの夢を叶えてくれるように思えるのです。仕事や実生活ではリスクをとらないのに、相場では大胆になります。彼らは迷える羊です。いや。そんな可愛いものではありません。レギオンに取り憑かれた豚です。日本人は夢を見るのではなく、現実と向き合うべきです。
日本人はファンタジーに過ぎないものを現実と混同しています。投機のみならず、仕事でもIT業界への転職と成功を夢見たり、FIREを望んでみたりします。
電車内でサラリーマンは痴漢を繰り返し、公共の場では盗撮を試み、ジャーナリストは肩書を利用して強姦を行います。卑しい夢をそんな所で実現しようとしています。
日本人は昔のように酒に飲まれて、電車内や道路で泥酔するのが良いのかもしれません。新人として会社に入り、泥酔をくりかえしながらいつの間にか定年を迎えて、いつの間にか死んでいる。それが日本人にとっては一番良いのです。