kurukuru89’s blog

主に原始キリスト教、哲学、心理、日本人について、気の赴くままに語ります。知識ではなく新しい視点、考え方を提供したいと思っています。内容は逆説的、独断的な、投影や空想も交えた極論ですが、日本人覚醒への願いを込めたエールであり、日本の発展に寄与する事を目的とします。(ここで言う日本及び日本人とはあたかもそれらを代表するが如く装うが、理性が未発達な為、感情的に動き、浅薄な信条に左右され社会に仇なしてしまう集団や人々を主に指しています)これらを通して人間に共通する問題をも探り散文的に表現していきます。

犠牲を厭わず理想を追うことについて(映画「ピュア」)

「ピュア 純潔」というスウェーデンの映画があります。アリシア・ヴィキャンデルが主演をつとめましたが、その演技力によって数々の賞を勝ち取りました。「純潔」というタイトルは誤解を招きかねませんが、真面目な作品です。原題は「美しきものへ向かって」という意味のタイトルとなっています。

 

この映画の主人公はカタリナという貧困街に住む若い女性です。偶然に動画サイトでモーツァルトの音楽を知り、美しい世界に憧れるようになりました。それまでの自堕落な生活を改めて、理想に向かって歩んで行きたいと決意したのです。

彼女は有名指揮者のコンサートを聴きにも行きました。そのコンサートホールに入り浸るうちに、偶然にもそこで受付の仕事を得ることができたのです。

 

楽団関係者と受付で会話を交わすうちに、かの指揮者と不倫関係に入ります。この指揮者はキルケゴールの「勇気こそが人生を切り開く唯一の手段だ」という言葉を伝え、彼女はそれに感銘を受けます。グンナル・エケロフの詩集も渡され、そこに載っていた「偽りの純潔を汚し汚い本質を見せつける」「真実の暴力が魂を飲み込む」という言葉にも感動します。

さらに指揮者は、自部屋にカタリナを呼び、「苦悩こそが人間を成長させる原動力だ」「現代では多くの人々がクスリによって苦悩を弱めて腑抜けになってしまった。人々が人生に不安を抱かない方が権力にとって都合がいいからだ」と持論を展開します。こうしてカタリナは、全く新しい視点で世界を見るようになります。

 

スウェーデン福祉国家として知られています。けれども雇用の流動性が高く、解雇は当たり前のように起こります。ただし失職しても手厚い社会保障制度があり生活に困ることはありません。とはいえ、抗うつ剤などの薬を常用している人は多いと言われています。たとえカネに困らなくても、自分を高めてくれる仕事がなければ人は不幸に感じるのです。

この映画の主人公カタリナは、理想の世界を見つけ、自分が成長する手段をやっと見出したのです。そのうちに彼女は「子供たちに音楽を紹介する仕事をしたい」と強く願うようになりました。

 

カタリナは下層階級出身の彼氏を捨て、自分にいろいろな事を教えてくれた指揮者についていこうとします。けれども指揮者にとっては一時の遊びに過ぎなかったのです。指揮者は彼女を解雇します。「仕事を続けたい」と机にしがみついて抵抗しますが警備員に抱えられ、外に放り出されてしまいます。

指揮者はカタリナに「ここはお前の居る場所ではない。居た場所に帰れ」と言います。「階級を超えるには勇気が必要だが、お前は努力が足りない。努力したと思っているだけだ」となじられます。ついには「お前にお似合いだ」とばかりに、ストリップダンサーの真似事までさせられます。そうまでしても、彼女は理想の世界を追い続けたかったのです。もはや眼の前の男は重要ではなくなりました。理想を追うために今の仕事を続けることが大切な事となったのです。手段を選んでいる場合ではありません。彼女にも重要な運命の岐路に立たされる場面がやって来たのです。

 

理想を追求し続ける人々によってこの世界は発展してきました。独裁者と呼ばれる人間でも、自己の利益ばかり追求していた訳ではありません。彼らなりの理想を描いていたのです。ガウタマ・ブッダ始皇帝ユリウス・カエサルイエス・キリストチンギス・カン、ナポレオン、ヒ○ラーといった人々は、間違いなく並外れた天才です。彼らが居なかったとしたら歴史は全く違っていたでしょう。良くも悪くも多大な影響力を持った人間だったのです。

彼らのある者は、死の恐怖に怯えたり、殺されたり、幽閉されたり、自殺したりしました。決して幸せだったわけではありませんが、「どうしてもやり遂げなければならない」という使命感を心のうちに持っていたのです。

 

近代になって、人間はかつてない程の自由を得ることができました。しかしその代わりに格差社会が到来しました。下の階級に位置する者は「努力不足」「自己責任」と言われるようになったのです。けれども努力だけではその溝は埋まらず、階級は固定化していきます。この映画では、そのような現実に対する主人公の遣る瀬ない怒りも感じられます。

 

階層が固定化すると、「ハズレ」とされる人間が社会の表面から居なくなる代わりに、ずば抜けた人間も居なくなります。無難な人間ばかりになり、社会から活力が失われます。公金を懐に収め仲間内で利益を分け合うような人間ばかりが目につく社会となるのです。再分配が機能せず、格差が広がるだけの社会です。

 

今の世界では、誰もが頂上を仰ぎ見ることができます。しかし現実を見ると、両者の間には、渡ることのできない深い溝があります。しかもそれは自分のせいにされるのです。怒りを発散しないのならば「そういうものだ」と諦めるか、薬で誤魔化すしかありません。

けれどもそうした負のエネルギーを有効に活用することで、大きなパワーを得て世界を変えることもできるのです。そのような途方も無いことをやってのける人間も、世の中には必要です。


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