クラシック音楽は、高尚な音楽のように見られることがあります。しかしクラシック音楽だって、その当時のポップミュージックだったのです。当時の楽器で演奏することによって、その時代の雰囲気に少しでも近づくことができます。
バロック期以前の音楽というのは、宗教音楽を除けば、ちょっとした余興で演奏される雰囲気作りの添え物だったり、曲芸を披露する大道芸のようなものでした。音楽は、詩や絵画と比べて劣るものだと思われていたのです。
バッハやモーツァルトの音楽だって、多くは貴族の慰みものとして作られたものです。バッハの「ブランデンブルク協奏曲」を聴くと、お城の中で着飾った人々が踊る姿が目に浮かんでくるようです。当時のダンスミュージックのようなものだったのです。
ベートーヴェンの時代になって、ようやく作曲家は独立することができました。哲学や文芸と比肩するようなものであると、作曲家自身が胸を張るようになったのです。
ベートーヴェンの「エロイカの主題による変奏曲」というピアノ曲があります。交響曲第3番(エロイカ)はベートーヴェンが最も好んだシンフォニーでした。4楽章のテーマが殊の外気に入っていたようで、それを用いた変奏曲を別に作ったわけです。普通に演奏してしまうと、曲芸を交えた、酒場で演奏されるような音楽のようにも聞こえます。初期のピアノ曲であるユーモラスな「失くした小銭への怒り」のような感じです。現代のプロが弾くような仰々しいものとは異なり、案外、こういった雰囲気のほうが当時のものに近かったのかもしれません。
ベートーヴェンの「交響曲第7番」は、同じ頃に作られた「戦争交響曲(ウェリントンの勝利)」と一緒にコンサートで披露されました。後者は、ナポレオンに対する勝利を祝った音楽です。当時は熱狂的に歓迎されたようです。今ではほとんど演奏される機会が無いことを思えば、ちょっとした驚きです。逆に「交響曲第7番」は「酔っぱらって作ったのではないか」と言われる始末でした。ちなみにその頃のウィーンではロッシーニなどの音楽が流行りであり、ベートーヴェンは落ち目と見られていたのです。
このような当時のポップ・ミュージックも、クラシックとして恭しく受け継がれるようになると、演奏方法も変わっていきました。高尚なものに聞こえるように、ちょっとしたタメを作ったり、テンポやピッチを微妙に変えて演奏するようになったのです。
楽器も変わっていきました。より純音に近く、より大きな音が出るように楽器は改良されていきました。人間が楽器の判別をする場合には、音の出始めの部分に多くを頼っています。例えばそこを人工的にカットしてしまうと音の区別が難しくなります。同じように、それぞれの楽器のクセが無くなると、音がひとつに溶け合う代わりに、各楽器の区別が曖昧になり、立体的に浮かび上がるような感じがなくなっていきます。
また、各楽器の周波数帯も重ならないように改良されていきました。こうすれば、異なる楽器で一斉に演奏してもうるさく感じません。シンフォニーとしては理想的です。けれども、単独で演奏した時のふくよかな響きは失われます。
こうして楽器が改良されることによって、大人数での演奏が可能となり大きな音で鳴らせるようになりました。つまり、より大きなホールで、大勢の人に聴かせることができるようになりました。「クラシック音楽」は上品で洗練された、誰にとっても聞きやすいイージーリスニングのような音楽になっていったのです。けれども「聴きやすい」のと「魅力的」なのとは違います。
協奏曲においては、ソリストは自分の楽器の音を目立たせるために、ヴィブラートをかけたり、ピッチを少し上げたりします。でもそれは、作曲家が当時耳にし、イメージしていた音とは違うもかもしれません。当時の素朴なフルートやホルンは、演奏は難しいですが魅力的な音がします。
このように、クラシック音楽の演奏はより多くの聴衆のために楽器を改良して聴きやすくなりましたが、面白みが犠牲になったのです。もしローリング・ストーンズの「サティスファクション」のリフが、荒々しいあの音でなかったらどうでしょうか。魅力は半減してしまうのではないでしょうか。
毒牙を抜かれてしまったクラシック音楽も、古楽器で演奏することによって魅力が増すことがあります。作曲家が意図していた本来の躍動感が得られるのです。ベートーヴェンの交響曲第5番も、古楽器で演奏することによって当時の衝撃度が伝わってきます。こうしたものを積極的に聴いてみるのも、クラシック音楽鑑賞におけるひとつの楽しみです。
以下はGoogle Bardが生成した「古楽器」についての説明です。
古楽器とは、バロック時代やそれ以前に作られた楽器のことです。現代の楽器とは音色や構造が異なり、古楽器で演奏することで、当時の音楽をより忠実に再現することができます。
古楽器の演奏は、19世紀末に始まった古楽復興運動によって盛んになりました。古楽器の研究が進み、作曲家が意図した演奏方法がわかるようになってきたからです。 古楽器の演奏は、現代の楽器の演奏とは大きく異なります。古楽器は現代の楽器よりも音量が小さく、音色も柔らかいため、奏法もそれに応じて柔らかく繊細になります。また、古楽器は現代の楽器よりも調律が不安定なため、テンポやリズムも柔軟に変化させます。
古楽器の演奏は、現代のクラシック音楽とは異なる独特の魅力があります。古楽器で演奏されたバロック音楽を聴くと、当時の人々がどのように音楽を聴いていたのかを想像することができます。
古楽器の演奏を聴く機会があれば、ぜひ一度聴いてみてください。きっと新しい発見があるでしょう。
クリストファー・ホグウッド指揮の古楽器によるベートーヴェン交響曲第5番の第1楽章です。
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Beethoven: The Symphonies / Hogwood, Academy of Ancient Music