日本人は人間関係に苦しんでいます。関係を構築し維持するのが難しいからです。和の精神を大切にするといいながら、実は孤立している人々です。協力しあう事ができないので、日本はますます衰退していきます。
こんな話を聞きました。赤ん坊を連れて歩いていると、すれ違いざまに「かわいい」と独り言のように言って去っていく人が、しばしば居るのだそうです。当人はこれを、親に応答の手間を取らせない為の、思いやりに溢れた行為だと解釈していました。
似たような経験は誰にでもあるのではないでしょうか。すれ違い様に捨てゼリフを吐いていく人達の事です。誉め言葉は未だしも、悪口を言われる事もあります。単純に善意の気遣いに満ちた行為とは言えないようです。
日本人は他人との関係を構築するのに慎重です。日本人が関係を構築していくフェーズを、簡単にまとめてみました。下図をご覧ください。
日本人は、知らない人とは出来るだけ距離をとろうとします。どうしても関係を構築しなければならない場合は、相手が上か下かを見極めます。それによって態度を変えるのです。
相手が、自分とはかけ離れて上に位置する場合は簡単です。「凄い」と絶賛し、平身低頭すれば良いのです。また、かけ離れて下に居る場合も簡単です。軽蔑し嘲り笑えば良いのです。TVに映る惨めなお笑い芸人に対するようにです。ここまでは良いでしょう。
問題は、ある程度に相手が同等であると見做した場合です。相手を仲間として受容しますが、この蜜月関係は長くはありません。日本では、常に「上か下か」の調整が入るからです。相手と交友関係を結ぶと同時に、時に相手をからかってみたり、感心してみせたりしながら、緊張関係が続くのです。そして最後は対立に至り、相互に拒絶する関係、すなわち絶交状態となるのです。
どちらかが下となり、相手に仕える状態に甘んじれば、絶交を回避する事ができます。しかし自尊心のある人間ならば、そんな屈辱的な真似は出来ないでしょう。
「受容」の時期にある人々は、外から見れば良好な人間関係を結んでいるようにも見えます。しかし日本人にとって、実はもっとも負担が重い時期でもあるのです。贈物だったり、食事だったり、たわいない遊びだったりと、この関係を維持する為に多大な労力を必要とするからです。相手が自分に見合わない場合には、だんだんと疎遠になるのが理想的です。しかしそうできない場合には、破局が訪れます。
日本人は対人関係において不安にならざるを得ないのです。黙って静観しているのを好むわけです。
上の図には一つ例外があります。日本人がよく使う「カワイイ」という言葉を発する場合です。日本人が人に対して「かわいい」と言う場合は、畏れと侮蔑が入り混じった複雑な感情を伴います。対象が、赤ん坊のように、非日常的な存在でありながらも、無力であり自分に危害を加える恐れが全く無い場合に使うのです。
以上が上に掲げた図の説明でした。ここで改めて冒頭のエピソードを振り返ってみましょう。
日本人は、相手の応答を期待しない、独り言のような発話をする傾向があります。あなたの周りにも居ないでしょうか？ 通りすがりの人々やTVを見ながら、場面の描写とも感想とも見分けがつかない言葉を次々に発している人がです。相手が居るのに会話になっておらず、ただのつぶやきです。公の場でもそんな調子で喋る人がいます。他人に対する共感が欠けている人間です。
こうしてみると、冒頭に挙げた、すれ違い様に捨てゼリフを残していく人々は、決して気遣いがあるのではなく、他人への想像力や思いやりに欠けた人々である事がわかります。
どうして日本人はこうなってしまうのでしょうか。多くの人々は感情的に不安定であり、自身の苦い経験から、最も望ましいのは他人と余計な関係を結ばない事であると学ぶのです。だから日本人は出来るだけ他人との接触や関係を避けようとします。
日本人が人に冷たいというのは、ここから来ています。また他人を嘲笑ったり、権威に寄り添ったりするのも、同じメカニズムです。彼らはネットでもTVの視聴でも、現実世界でも、罵詈雑言を書いたり、吐いたりし、権威に阿諛追従するのです。
昔ながらの素朴な地域コミュニティが崩壊した結果、日本人は他人との正常な関係を結べなくなりました。その代わりに彼らは、TVやネットを通じて、世間との接し方を学ぶのです。
もはや「静観」をして居られず、感情の赴くままに、怒りや嘲笑や無遠慮な言葉を相手にぶつけます。現実世界でも同じことをしてしまうのです。
ネットで見られる日本人の狂騒は、不安定な日本人の心が可視化されたものだったのです。
