ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番(作品番号131)は、彼の生涯の最晩年に作られた曲です。楽譜の出版と初演は死後となりました。出版の順序の関係で番号が入れ替わっていますが、15番目に作られた弦楽四重奏曲です。献呈は甥カールの就職で世話になったシュットゥッターハイム男爵でした。この後に作られた曲は、規模の小さい第16番と13番の新しい終楽章だけです。この作品はベートーヴェンの最後の傑作となります。
本作はベートーヴェンが作った弦楽四重奏曲の中でも最高峰に位置する作品です。7楽章ありますが切れ目無く演奏されます。どの楽章も聴く価値のある素晴らしいものです。ベートーヴェンらしく希望と絶望が短い間で入れ替わり複雑な感情を表していますが、全体としては極めて格調の高い作品です。
第1楽章は晩年のベートーヴェンが執着していたフーガで始まります。2楽章は後期の作品らしく透明感のある幻想的で不思議な美しさがあります。第4楽章は彼が得意としていた変奏曲形式です。第5楽章は2拍子の珍しいスケルッツォで特殊奏法も散りばめており大変印象的です。終楽章には毅然とした美しさがあります。
曲は嬰ハ短調で始まりますが、最後は嬰ハ長調で終わります。そこに聴手は僅かな救いを得ることができます。シューベルトはこれを聴いて「この後に我々は何を作れるのか」と語ったという逸話も残っている曲です。
動画はカルテット・アロドによる演奏です。2013年に結成され数々のコンクールで1位を獲得しています。高度な技量とセンス、そして若々しいエネルギーを兼ね備えた弦楽四重奏団です。