kurukuru89’s blog

主に原始キリスト教、哲学、心理、日本人について、気の赴くままに語ります。知識ではなく新しい視点、考え方を提供したいと思っています。内容は逆説的、独断的な、投影や空想も交えた極論ですが、日本人覚醒への願いを込めたエールであり、日本の発展に寄与する事を目的とします。(ここで言う日本及び日本人とはあたかもそれらを代表するが如く装うが、理性が未発達な為、感情的に動き、浅薄な信条に左右され社会に仇なしてしまう集団や人々を主に指しています)これらを通して人間に共通する問題をも探り散文的に表現していきます。

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第12番

ベートーヴェン弦楽四重奏曲第12番は、後期に書き上げられた一連の弦楽四重奏曲のスタートとなる曲です。交響曲第9番とミサ・ソレムニスという大作を書き上げてから、ベートーヴェンは、それまで中断していた弦楽四重奏曲の作曲を再開します。その嚆矢となる本作品は54歳の時の作品です。切っ掛けはロシアの貴族からの依頼でした。

 

ベートーヴェンはそれまでの弦楽四重奏曲を変えてしまいました。曲の中で、第2バイオリン、ヴィオラ、チェロが対等に語り合うのです。各メンバーも、バイオリンと同じレベルの技量とセンスが必要です。特に、後期の作品はポリフォニー的なものが多く、各楽器が独立した旋律を奏で、お互いに激しく対峙することもあります。

 

第12番は後期の作品の特徴がよく現れています。調性はベートーヴェンが好んだ変ホ長調です。しかし同じ調性である「英雄」や「皇帝」といった作品とはまるで違う印象があります。

第2楽章は長めで、演奏時間は18分前後くらいです。調は変ホ長調と4度上の関係にある変イ長調です。うっかり聴き流してしまうかもしれませんが、実に野心的な作品です。

変奏曲形式となっています。8分音符と4分音符を組み合わせた「タ・ター」というシンプルな音形をさまざまに変奏していきます。この音形は、まさしく第1楽章の冒頭から採られてたものです。この音形が「ター・タ」という形になったり、4分音符と16分音符の組み合わせの「ター・タタ」という形になったりします。リズムもシャッフルのように跳ねる部分があります。

第2変奏は特に魅力的です。チェロとヴィオラが刻むリズムの上で頻繁に調が入れ替わり、目まぐるしく曲の感じが変わっていきます。喜びや悲しみ、怒りや、祈り、感謝といった情感が展開されていきます。

ベートーヴェンは弦楽器一式を所有していました。しかしベートーヴェンが作曲で主に使っていたピアノは当然ながら平均律の楽器です。対して弦楽器は純正律で弾くことができる楽器です。

この第2変奏のように、短い間に転調を繰り返す場合は、純正律だと若干違和感を感じてしまうことがあります。特に高域においてそれが目立ちますが、奏者は強弱をつけたりテンポを変えたりして工夫をしています。しかしその摩訶不思議な響きも魅力のひとつとなっています。

 

ベートーヴェンはとても感情が豊かです。ピアノ曲だけに限ってみても、モーツアルトショパンの曲では物足りなく感じてしまうことがあります。もっともベートーヴェンは、彼ら2人と比べると遥かに長生きしており人生経験も豊富だったと言えるでしょう。

自身の感情のパレットから感情Aと感情Bを取り出して、それを巧みに配した小節を作ることによって、新しい感情Cを表現するといった感じです。それが組み合わさって、楽章全体であるイメージを作り出し、さらに曲全体で、纏まったイメージやメッセージ、思想を伝えるのです。

 

ベートーヴェンの作った曲のなかで、ピアノソナタと同じくらい重要なのが弦楽四重奏です。特に後期の作品は何度も聴き返すことで新しい発見があります。

後期弦楽四重奏曲は敷居が高いと評されることもありますが、全然そんなことはありません。ピアノの音を高域から低域まで綺麗に再生するのは難しく、その点では弦楽四重奏の方が音色が分かれているので再生音楽では聴きやすいと言えます。

また、ピアノソナタ交響曲と異なり、弦楽四重奏ベートーヴェンが想定したであろうテンポに近い演奏が可能です。実際にそれらと比べてベートーヴェン弦楽四重奏曲は極端な程に速く感じます。その点でも、ベートーヴェンの想いがより正確に伝わってくる音楽といえるでしょう。

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(第2楽章の第2変奏は13:00から15:00迄です。エベーヌ弦楽四重奏団メンバの表情も豊かで分かりやすい演奏です)

ベートーヴェン:後期弦楽四重奏曲集

Complete String Quartets