アメリカは岐路に直面しています。「このまま衰退するのか再び力強く復活するのか」という分かれ道です。これからアメリカはどうなって行くのでしょうか。
もともとアメリカはヨーロッパとは異なる新しい秩序を望む人々によって作られた国です。17世紀に清教徒を新世界へと導いたジョン・ウィンスロップは「ニューイングランドは丘の上の町である」と語りました。「丘の上の町」とはマタイ書にある「あなたがたは世の光である。山の上にある町は隠れる事がない」という言葉から来ています。
「自由を求めこれを全世界に広げる」というのが米国の使命です。西部開拓時代に使われた「マニフェスト・デスティニー(明白なる天命)」にそれが良く表れています。古代ギリシャで発生した文明がヨーロッパを経てアメリカへと渡りやがて世界中に行き渡るという世界観です。建国の父トマス・ジェファーソンは「われわれは全ての人類の為に行動する」と述べています。
アメリカは古代ローマ帝国の真の後継者です。帝国滅亡後に「ローマ帝国」を名乗る国家は数多く居ましたが世界帝国となったのは米国だけです。
しかしながらどんな覇権国家でも必ず衰退していきます。その中に小さな興亡のサイクルがあります。米国は少なくともいま衰退の局面にあるのです。
18世紀のアメリカは豊かでした。スコットランド出身の経済学者、アダム・スミスの「国富論」にはその様子が述べられています。米国に移り住んだ人々は子供を沢山産み、それぞれが家庭を作ることによって更に豊かになって行きました。子供は資産と看做されていました。生物学的ウェルビーングも良く、平均身長は当時の世界で最も高かったと推測されています。
これが19世紀になると様相が変わります。経済格差が拡大したのです。南北戦争は南部の豊かな奴隷所有者と北部の銀行家・商人との間の戦いでした。北軍の勝利によって安い労働力が市場に放出され外国との自由貿易も推進されました。それにより更に格差が広がったのです。戦争帰りの元軍人が大勢おり銃も容易に入手出来ました。無法者が暴れまわる西部劇の時代はちょうど19世紀後半の頃の話です。
そして20世紀に入る頃にアメリカは「革新主義時代」を迎えます。社会の為に富裕層が進んで自分の権利を制限したのです。政治改革のみならず、反トラストや労働者保護などの経済規制や社会福祉向上も進んで行きました。理想的な「社会契約」が国と資本家そして労働者の間で実現したのです。
第二次世界大戦の勝利を挟んでアメリカは類を見ない繁栄を遂げました。しかしこれも1970年頃から再び雲行きが怪しくなって来たのです。更にレーガノミクスにより経済格差が広がっていきました。庶民から富裕層への富の移動です。それが今に至るまで続いています。
その間アメリカは自国の不安定さを他国に輸出する事によって息を永らえて来ました。第2次ニクソン・ショックによりゴールドとドルの兌換が廃止されました。それでも他国はドルや米国債を買って呉れたのです。本来ならばドルの価値はとっくに希釈されているはずでした。また米国は、自国が戦場となるのを避けながら戦争による果実を得る事が出来ました。
このような巧みな戦略によりアメリカは崩壊を免れる事ができました。アメリカの製造業は危機に瀕していましたが幸いにもGoogleやMicrosoft等のIT企業が登場して現在の繁栄に至ります。2008年には世界的な金融危機が発生しましたが大規模金融緩和により問題は先送りされました。
しかしそれも限界を迎えています。理想的な社会契約が不可能ならば断固たる政治改革を実行するしかありません。つまりある程度の独裁制もやむを得ないのです。
20世紀で最も成功した独裁者はスターリンでした。革命により生まれた脆弱なソビエト連邦を世界を二分する大国へと導きました。しかし本人は至って禁欲的な人物でした。一族や息子に富を分け与える事もしませんでした。長男はドイツの捕虜収容所で死亡しました。スターリンが捕虜交換を拒否したのです。他の息子もアルコール依存症で死んだり米国へ逃亡したりしました。誰も信用しないのがスターリンだったのです。
彼の大きな功績はエリートを粛清した事です。ロシアには多くのカウンター・エリートが居ました。高い教育を受けたものの富裕層や役人になれなかった貴族や地主の息子たちです。いわゆるインテリゲンチャです。こういった人々の存在は社会を不安定にします。
スターリンは次々に自分の身の回りの者やエリートを処刑したり強制収容所送りにしたりしたのです。こうして国家を転覆する恐れのあるエリートを必要最小限のものとしたのです。
社会が豊かになるとエリートの数が増えて行きます。貴族や役人、富裕層です。それが庶民から富裕層への富の移転を引き起こします。この仕組みを回し続ける為に法律を変える事さえします。最終的に革命が起こりますが失敗に終わる事がほとんどで多くの国家は破綻します。
出来る事ならば既存のエリート層が政治改革と経済規制を行った方が良いのです。独裁による改革は次善の策です。革命は下策であり大変な犠牲を伴いしかも国家が崩壊する可能性も高いのです。
米国の改革が進行中です。しかし一方でアメリカは既に高度な監視社会です。司法制度や警察組織が強固であり、無法者や反体制組織が生き伸びる余地はありません。経済格差は広がり一発逆転の夢も不可能となっています。「自由」「平等」は過去のものとなったのです。
独裁が進めば現在の衰退を止める事が出来るかもしれません。しかしそれは同時に米国建国以来の夢を捨てる事にも繋がります。それは喜ばしい事でしょうか。あるいは世界にとり凶兆となるのでしょうか。