kurukuru89’s blog

主に原始キリスト教、哲学、心理、日本人について、気の赴くままに語ります。知識ではなく新しい視点、考え方を提供したいと思っています。内容は逆説的、独断的な、投影や空想も交えた極論ですが、日本人覚醒への願いを込めたエールであり、日本の発展に寄与する事を目的とします。(ここで言う日本及び日本人とはあたかもそれらを代表するが如く装うが、理性が未発達な為、感情的に動き、浅薄な信条に左右され社会に仇なしてしまう集団や人々を主に指しています)これらを通して人間に共通する問題をも探り散文的に表現していきます。

アバドによるベートーヴェン交響曲第3番

アバドベルリン・フィルにより2000年に録音されたベートーヴェン交響曲第3番は、彼の録音の中でも特徴的です。スコアは当時のジョナサン・デル・マールの新版を使っています。いわゆる「ベーレンライター原典版」です。その意図を最大限に活かすような指揮が行われています。

 

ベートーヴェン交響曲のうち大編成による演奏を考慮したものは5番、7番、9番の3つだけです。これらについては「木管楽器を倍にして弦楽器を増やしても良い」とベートーヴェン自身が書き残しています。

しかしそれ以外の交響曲はどれも貴族の館の一部屋で演奏されたのです。小編成であれば個々の楽器が際立ち音の立ち上がりは明確で鋭くなり、ベートーヴェンの指示を尊重した速いテンポでの演奏も可能になります。

アバドによるこの曲も室内楽的に演奏されています。聴いてみて分かるのは曲全体の躍動感です。アバド特有のリズム感の良さもそれに役立っています。

 

いうまでもなく交響曲第3番は、同時期に活躍していた英雄ナポレオンに影響を受けて作られたものです。ベーレンライター原典版では、第1楽章コーダでトランペットにより高らかに演奏される「英雄」のテーマが、1回目の途中で消えてしまうという特徴があります。

古楽演奏で有名なウィーンの指揮者アーノンクールはこの部分について「英雄の死を意味している」と語っています。それを強調するかのように、このテーマが木管楽器に受け継がれ弦楽器の不協和音で盛り上がった後に主音へと戻るフォルテッシモの部分ではティンパニが激しく強打されます。

 

第1楽章では「英雄」による「社会への啓蒙」を描いています。人々に「目覚めよ」と力強く劇的に語りかけているわけです。人々は最初は弱く、しかし次第に大きな反応を示すようになります。その啓蒙は彼の死によって突然中断されます。けれどもその思いは庶民に引き継がれていくのです。

この楽章が3拍子というのも象徴的です。最初の1拍が英雄による「呼びかけ」で後の2拍がそれに対する民衆の「応え」です。冒頭では1拍目の呼びかけに対して何の反応もありません。しかし曲が進むにつれて力強い「応え」が返って来るようになるのです。

 

最初の楽章で英雄が死んだという事であれば、その後に続く第2楽章がいきなり葬送行進曲となるのも納得がいきます。

 

第3楽章はベートーヴェンの曲に良く出てくるスケルツォですがコミカルな感じがあります。特に有名なホルン3重奏の第1ホルンのソロ部分です。

当時のホルンは最後の部分で音が裏返り滑稽な響きとなります。まるで酔っ払った庶民が気炎を上げているかのようです。ベートーヴェンがこれに気づかなかった訳がありません。彼はわざとそれを狙ったのです。楽器の音域の限界を気遣って書いたのなら、第1楽章のトランペットを途中で止める一方で、ホルンには無理なソロを吹かせるというのが理屈に合わないからです。

 

終楽章は「新しい社会の創造」を表しています。「英雄」によって生まれた革命の気運は、彼の死後も庶民に引き継がれ、社会全体の大きな改革へと至るのです。こうして革命の達成を喜び祝いながら交響曲は幕を閉じるわけです。

 

「本当にそこまでの意味を込めたのだろうか?」と疑問に思う人がいるかもしれません。しかしベートーヴェンは思想や哲学を音楽で表そうとした人です。

 

当時の貴族にもそれを受け入れる土壌がありました。というのも若いモーツアルト貧困状態のうちに死なせてしまったという苦い記憶がウィーンの貴族たちには未だ残っており、才能ある音楽家を最大限に援助していこうという気分が彼らのうちにあったのです。ベートーヴェンがウィーンを去ろうとした際には貴族達がこれを引き止めて年金の支給まで提示しています。

 

貴族はベートーヴェンの長く複雑で難解な曲に喜んで耳を傾け「自分たちが至らなくて分からない部分は詳しく説明して欲しい」と積極的に教えを乞うたのです。

そのような背景を思うと、この「英雄」交響曲においても曲が終わった後に上機嫌で貴族に対して曲の解説をするベートーヴェンの姿が目に浮かぶようです。

 

このようなウィーンの土壌があったからこそベートーヴェンは、自由に最先端の思想に触れ、才能を十分に活かして長大で込み入った曲をいくつも創り上げることができたのです。

当時は最新の「現代音楽」であったベートーヴェンの曲も、現在では格式張った「クラシック」と呼ばれるようになりました。しかしやはり当時の社会がどのような雰囲気であったのかを理解し、曲も当時のように演奏することは重要なのです。

アバドベルリン・フィルによる交響曲第3番の第1楽章です。コーダのトランペットは15:15からです。

ナチュラルホルンによる第3楽章の3重奏の演奏です。

ベートーヴェン:交響曲第3番、第4番