日本を貧しくしているのは誰なのでしょうか。外国でしょうか。資本家でしょうか。悪徳政治家でしょうか。それとも怪しげな秘密結社なのでしょうか。
まず日本の働き手が置かれている状況について考えてみましょう。
会社が利益を得るには、次のような方法があります。従業員を長く働かせる。生産効率を上げる。革新的な生産手法や新しい商品を生み出す。この3つになります。
他の国と比べて、日本人は長時間にわたり労働をしています。最近はみなし労働時間制も増えてきました。あらかじめ残業することを見込んで、固定の残業手当を会社が支払ってくれるです。「なんて良い会社なんだ」と考えてはいけません。基本給を減らした分を残業手当と称しているだけなのです。
しかし不思議なもので「残業手当をあらかじめ支払います」と言われると、残業をしないと申し訳ないように思えてくるのです。定時でそそくさと帰っていく人は一人もいません。たとえ末端の労働者であっても、「自分で仕事量を決めている」という実感があった方がやる気がでるのです。ただし「仕事が終わったので早く帰ります」というのは許されません。でも「自分が納得が行くまで残業をしました」というのならば、自分も満足するし、雇う側も喜びます。客だって喜びます。かくして長時間労働が常態化します。
最近はIT化やデジタル化の恩恵で、今までは出来なかったことが可能となりました。仕事がラクになると思いきや、却って忙しくなりました。昔はひとつのプロジェクトに専任するというのが普通でした。しかし今は、プロジェクトAが30%、プロジェクトBは30%、プロジェクトCが40%といったように、社内でも仕事を掛け持ちするのが普通になってきています。より短いサイクルで納品して早く売上もあげなければなりません。
会社の利益をどう増やしていくかというのは、経営者が考えることです。ところが今では、末端の労働者もそれを考えなくてはいけません。技術者といえども、業績目標として売上や利益率の拡大が課せられています。
将来、経営者になる可能性があるならまだしも、そんな可能性が全く無い人も、自分たちのコストを下げて成果を増やすことに一生懸命です。
機械化を進めて生産効率を上げれば上げるほど、労働者のスキルは陳腐化し、近い将来にクビになる可能性が高まります。それでも目の前のニンジンを求めて頑張らなくてはいけないのです。
能力があり、評価されている労働者は「俺たちが納めた税金で貧乏人が楽をしている」と考え、手当を受けている失業者を嫌悪します。自分の代わりとなるような存在は、徹底的に叩き潰す必要があります。将来にわたり、決して自分たちの脅威とならないようにです。でも、彼らだっていつクビになるのか分からないのです。
日本は基本的に護送船団方式です。もっとも生産効率の悪い企業に合わせるのです。そのために日本は、先進国の中でも一番効率の悪い国となりました。それなのに安売りをしています。それを続けるためには、労働者の生活コストを下げる必要があります。「健康で文化的な最低限度の生活」水準はどんどん落ちていきます。
国はなんのためにあるのでしょうか。政府は、資本主義経済が必然的に抱えている矛盾を是正する必要があります。時代遅れの企業は退場させなければなりません。格差が拡大しないように富も分配しなければなりません。そうしなければ、社会が不安定になったり、恐慌が起きたりするのです。
けれども、法人税を高くすると企業が外国に逃げてしまいます。そのために法人は優遇します。その代わりに庶民から税金を取り立てることになります。こうして国民は貧しくなっていくのです。
民間企業は利益を追求します。他の企業との差別化を図る必要があります。効率化やイノベーションによって、シェアを拡大したり、新しい市場を開拓するのです。企業がハイブランド化すれば、コストを下げながら自ら供給を制限して、利益率を高いまま維持することもできます。
公務員はどうでしょうか。同じです。彼らも利益を追求しています。他の省庁よりも抜きん出て、自分たちの省益を最大化するように動きます。
ところが税収が一定だと、他の省庁はそれだけ予算が減ってしまうことになります。これではゼロサムゲームです。そうならないように、税収を毎年増やしていく必要があるのです。その点で全省庁の利害は一致しています。省益を拡大し、さらに増税を成し遂げた者が評価され出世していきます。組織をひたすら増殖させることが目的となっているのです。
こうして、国民の為に存在していたはずの組織が、国民を搾取するためのシステムとなるわけです。誰かの陰謀ではありません。仕組み的にそうなってしまうのです。
普通の民主主義国家では、国民がそうはならないように牽制をします。圧力団体や、国民に選ばれた政治家がそれをするのです。ところが日本の政治家は国民に雇われているのではありません。給料は国からです。しかもその額は役人が決めています。
企業にとっても、本来、労働者が貧しくなるのは本意ではないはずです。モノだって売れません。低賃金で雇えるはずだった外国人も、最近は日本に来るのを嫌がっています。とはいえ、税率を決めているのは役人です。何をすべきかも役人が決めています。いちいちお伺いを立てなければいけないのです。
銀行にしても、どこに巨額の融資をするのかを自分達だけでは決められません。融資先を決めるのは役所です。回収は自己責任です。これでは資本主義経済が健全に回っていくわけがありません。
役人には「国のために」という使命感があります。政治家への説明も、答弁書作りも、そのためにやっているのだと思えば頑張れます。「ここで手を抜いたら後で大変なことになる」という責任もあります。若手であっても、経営者や偉い学者が頭を下げてやって来ます。役人は腰が低いですし、目立とうともしません。周りが勝手に敬ってくれるので、そうする必要がないのです。
もっとも役人だからといって、自動的に偉くなるわけではありません。また、カネを持っている人間が偉いのでもありません。最上位の権威に近い人が偉いのです。権威によって任命される人々はもっとも高位の存在となります。そういった人々に近いかどうかで、自分たちも利益を得られるかどうかが決まります。将来も安泰です。皆が頭を下げてくれます。この方が、一時的なあぶく銭よりも余程大切です。しかしこれとは別に、非公式な最上位もありますので、生きていくにはバランス感覚が必要となります。
日本は、民主主義国家、資本主義国家を標榜していますが、実際のシステムは違います。資本家であっても搾取される存在です。企業は税金を負けてもらったり便宜を図ってもらう代わりに、所有する力の多くを明け渡し、彼らの言いなりになります。大企業や銀行であっても、上位の意向によって廃業したり合併したりします。飛ぶ鳥を落とす勢いだった社長でも逮捕される可能性があります。
本来ならば、利益を生み出せなくなった企業は退場となるのが普通です。しかし日本は違う仕組みで動いています。他の文明諸国とは異なるやり方で、富を吸い上げ、分配するシステムとなっています。しかしその仕組みもいずれ破綻する時がやって来ます。
日本人は低賃金で長時間働き、子供を作り身を削りながら次世代の労働者を育てることを期待されています。効率化が進む程に失業者も増えていきます。将来改善される見込みはありません。それでも耐え続けて上の権威に従わなければなりません。日本人の美徳です。
現在の状況は、彼ら自身が選び、それを受け入れた結果に過ぎないのです。