これからの日本人は、投資で生きていくのだとされています。彼らにはどのような結果が待ち受けているのでしょうか。
【投資と投機】
投資は人の役に立ちながら自分も利益を得るものです。それに対して投機は、他人のカネを掠め取ることです。短期の売買を繰り返すのは投機です。投資にはある程度の時間が必要です。
投資は分散投資が基本です。市場全体の上下に連動して大きく動く銘柄と、それほど影響を受けないものがあります。機関投資家は大量の銘柄をひとまとめに売買することで、リスクを下げているのです。しかしながら営利企業である以上、短期の売買で利益を出さなければなりません。そこが投資とは違うところです。
【素人の投資】
素人が資産形成の手段として株を買うのなら、一定額の株を分散して買い続け、長期に渡って保有する方法しかありません。年利にすると4%〜6%、良くて8%といったところでしょう。
多くの日本人はこの時点で興味を失ってしまうのではないでしょうか。なにしろ短期間で資金を2倍、3倍にすることを夢見ているのです。銀行に預けて6%の利息を貰えるのなら、そのほうが良いに決まっています。
数回の売買だけだったら、大儲けするかもしれませんが、大損するかもしれません。一方で、投資回数が増えるに従い、利率は平均的なものに近づいていきます。その代わりにリスクも減るのです。
【投資の目安】
どのくらいの期間で投資した資金が倍になるのかが、ひとつの目安になります。単純に考えてみましょう。「72」という数字を年利で割ると、倍になるおおよその年数がわかります。例えば8%なら9年です。4%なら18年です。6%なら約12年といった具合です。
仮に給料の手取りが17万円だったとしましょう。生活保護が12万円くらいですから、最低限の生活をするためのコストとして12万円を差し引くと、残りは5万円になります。いざという時のキャッシュとして3万円は貯金するとします。そうなると株に投資できるのは2万円だけです。
もし6%で運用し続けることができれば、12年後に2万円は4万円となり、毎月2万円づつ利益を取り崩していく生活が送れることになります。
けれども、月に2万円で何ができるでしょうか。しかも、運用が失敗し全てを失うリスクも考えないといけないのです。取り崩さずにさらに12年待つと8万円になりますが、24年もかかります。
【リスクの分散】
であれば、月々2万円から始めるのではなく、最初にまとまった額を投資しようと考える人がいるかもしれません。例えばあちこちから工面して最初に50万円を投資するといった具合です。
しかしちょっと待ってください。毎月一定額を買うのはリスクを分散するためでした。最初の1年で上げ相場になればいいです。ですが、もし大暴落があったとしたら、その後に6%で運用ができたとしても、12年間のトータルではそれをはるかに下回る利率となってしまうのです。
【資産形成ができる条件】
結局は資産形成と言っても、それなりの元手があり、定期収入がある人でないと、見込みはないのです。さらに長期投資ですから、少なくとも10年は待つ必要があります。雇用が不安定だったり、定年退職が目の前に控えていたら成り立ちません。
退職金や貯金を取り崩しての投資というのは、十分な額がなければ賢明とは言えません。毎月の出費で資金は減る一方なのですから、投資額も減らさないといけないのです。
【投資と心理】
また人間の心理として、毎月一定額を投資するというのもなかなかに難しいのです。「上げ相場だ」と皆が騒いでいる時でも、決めた額しか買わない。反対に「大暴落だ」と周りが慌てている時でも、決めた額をきっちり買う。これが困難なのです。多くの人は逆のことをしてしまいます。信念と自律心が必要です。
相場で「当たった」「外れた」と騒ぐのはギャンブル的な面白さがあります。経営状況を判断して株を買うのも、いっぱしの投資家になったような気になって嬉しいものです。けれども長期投資においては、常に冷静である必要があります。むしろ興味が無いくらいがちょうど良いのです。
それなら投資信託がいいと考える人がいるかもしれません。しかし手数料が馬鹿にならないのです。年間手数料が2%だったとします。72を2で割ると36になります。トータルの運用成績が、儲けも損もない0%だったとしても、36年後には資金が半分になってしまうのです。
【投資と人生】
さらに、人生は何があるかわかりません。家族の事情や病気で、どうしても投資したカネを取り崩さないといけなくなるかもしれません。今、カネを使うことで得られるかもしれない幸せを、先延ばしにしているという事実も忘れてはいけません。投資は人生設計とも深く結びついています。
となれば、多くの人にとっては投機や投資ではなく、生活のコストを抑える方がマシだということになります。
クルマを持つのを諦めたり、飲み会や外食を控えたり、旅行を止めるといったことです。それで月々2万円を浮かしたほうが良いという事です。
【日本への投資】
とはいえ、国としては国民にどんどん消費をしてもらいたいし、投機にも精を出してもらう必要があります。確かに、多くの国民が一定額の株を買ってくれて、ずっと保有してくれれば、相場は右肩上がりに上がっていくはずです。
それを仕組み化したのが確定拠出年金です。強制的なものですが、ポートフォリオは自分で組むのですから、結果はすべて自己責任です。
【日本の起業家】
歴史を振り返ると、産業革命が起こって以来、世界経済は拡大し続けています。長期的に見れば右肩上がりです。ところが日本は衰退国家です。外国人投資家は、これからも日本に投資してくれるのでしょうか。
戦後生まれの大企業はソニーとホンダくらいしかありません。昭和一桁台までの人材が、日本における最後の起業家だったと言えるかもしれません。
アントレプレナーといっても、何も無いところから突然に生まれたりはしません。それなりの時代背景、教育が必要です。シリコンバレーに視察に行くことで即席栽培できるようなものではありません。けれども、相変わらずそんな泥縄方式を試みているのが日本なのです。
みんなが生活を切り詰めなければならない時代に現れる起業家とはどんなものでしょうか。詐欺師と紙一重です。成功すれば偉大な起業家、失敗すれば詐欺師と呼ばれます。しかも、失敗する確率のほうが遥かに多いのです。
それに加えて、日本には目利きがいません。モノやヒトの価値を正しく見定めることができないのです。だからまともな投資もできません。
【投資呼びかけの真意】
それでも「投資をしてください」という国の呼びかけには、2つのメッセージが込められています。ひとつは、外国人投資家に向けて「カモが大勢いますので、奴らを利用して儲けてください」というメッセージです。
もうひとつは、「国が相場全体を下支えする時代は終わりました。これからは自己責任で投機を続けてください」という日本人に向けたメッセージです。
「持っている人はさらに与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものさえも奪われる」という社会です。
【これからの日本】
とはいうものの、欲や嫉みは他人と自分を比較することで生まれてきます。日本人全員が平等に貧しくなってしまえば、煩悩から開放されるかもしれません。
多くの日本人は、「上の階級に這い上がる可能性はないが、下に転落するのは絶対に避けたい」と考えています。だから他人を叩き落としたくなります。本当は他人を助けることで皆が豊かになってきたのに、です。
日本人は羅針盤を持たずに生きています。ただ目先のものに囚われ、他人の目を気にしながら右往左往しているのです。方針が無いのでいつも判断が揺れ動いています。自分が何を欲しているのかさえ分からないのです。投資以前の問題です。
【おわりに】
結局のところ、日本は棄民国家に過ぎません。新しいものを生み出せず、ただ民をひたすら働かせカネを奪う。それだけの場所です。
しかし、こんな日本でも希望はあります。課題が分かれば、解決策も見いだせます。あとは行動するだけです。すでに行動を起こした勇気ある人々によって、日本も少しづつ変わって来ているのです。
金持ちのほうが損失に平然と耐えられるだろうと君が考えるのなら、それは間違いだ。体が大きかろうが小さかろうが、傷の痛みは同じなのだ
セネカ『人生の短さについて』