日本人はデジタル化やIT化に熱心です。しかし結果が出ていません。日本人はデジタル化という手段を目的と取り違えているのです。
多くの企業において、基幹システムの他に、複数のサブシステムやクラウドサービスが乱立している状態になっています。それらの間で情報をやり取りする必要もあります。多くはテキストデータの入出力機能がありますから、それを利用します。データの入出力は人手による作業です。しかもエクセルの関数やマクロを使って何かしらの変換が必要な場合も多々あるのです。これらは、現場に張り付いている保守要員がやっています。大きな無駄です。
なぜこんな事になっているのでしょうか。昔はスクラッチ開発が主で、企業の要望に合わせたカスタム仕様のシステムをいちから作り上げるのが普通でした。しかし莫大な予算が必要になります。完成するまで何年もかかることもあります。その間に技術や仕様が陳腐化してしまうリスクもあるのです。うるさい社内の情報システム部門を経由しなければならないという面倒もあります。経営企画部の中期計画にも縛られますので、事業部門で裁量できる範囲も限られています。
しかしクラウドサービスならば、事業部門が毎月利用料を払うだけでよいのです。まとまった予算は不要です。設備投資ではなく費用として計上できます。先程の保守作業を入れれば、相当の金額にはなりますが、ずっと敷居が低いのです。
しかも、業者にあれこれと無理難題を言って、特別な仕様変更を求めることもできます。有り難いことに仕様変更は無料です。せいぜい毎月の利用料にオプション料金が加算されるくらいです。業者が渋れば「別の業者に乗り換えるぞ」と脅せばいいだけです。
要するに日本人にとって、クラウドサービスは、リスクを全て業者に転嫁することができる有り難い仕組みなのです。
こういったサービスは気軽に導入できる反面、上で挙げたように、様々なシステムが乱立する原因にもなります。オンライン会議ツールひとつをとっても、Zoom や、Teams、WebEXなどが並立していたりするのです。どれを使うかは、その場の状況や好みによって決まります。
日本人は、場当たり的、泥縄的なやり方が好きです。深い考えもなく、目先のことに振り回されています。中期計画を見ると、流行りの言葉が並んでいて、もっとらしい事が書かれています。それなりの人々がいろいろと考えながら作っているはずですが、アウトプットは何とも無難なものになっています。
デジタル化は結構ですが、目的がすっぽり抜け落ちているのです。コミュニケーションの効率化や、プラットフォームの構築というのはごもっともです。けれどもそれで自動的に何かが生まれるという事はありません。
企業全体で、何か大きな付加価値を生み出す手段としてITを用いるという考えがありません。長期計画の目的が、ある程度抽象的になるのはやむを得ません。けれども、いつまで経ってもフワフワとしたままなのです。そうなると、コスト削減や効率化くらいしか目指すものがありません。
それでは実際に、コストが低くなって効率化が進んでいるかというと大いに疑問です。新しいサービスを導入する前に、様々な検討や会議、稟議が必要です。あらゆるリスクを検討するものの、導入してみると思いもしなかった問題が発生します。それに対処しようとすると、システムや運用がさらに複雑なものになっていきます。エンドユーザにとっても、使い勝手が悪い代物になります。頻繁に新しいシステムが導入され、作業も増えていきます。却って手間が増えてしまうのです。
たとえば勤怠管理を見てみても、紙やエクセルに記入していた昔のやり方のほうが時間がかかっていなかったかもしれません。管理できるデータは増えています。しかしそれによって何か良い結果が生まれているのでしょうか。
部分的に業務が最適化されていたとしても、全体ではそうでない場合があります。各部署でバラバラなツールや方法を用いています。日本ではトップダウンで業務の効率化を考える人がいないのです。
そもそも、IT企業と称しながらパソコンや通信機器を支給せず、社員の私物を使わせているような業者もあります。確かにコストは抑えられますが、本末転倒です。
要するに彼らは、カネをケチる手段としてしか、デジタル化やIT化を見ていないのです。カネをケチれるのなら、人間の負担が増えても平気です。こんな発想では、日本経済の回復など夢のまた夢です。
現代では、短期間で技術革新が起こり、新たなサービスが生まれます。キャッチアップするだけでも大変です。とりあえず世の中の流行に追いついて、表面的なシステムを整備すれば、それで良しとなってしまいます。これでは何の問題も解決しません。
いま話題になっているマイ○ンバーカ○ドも、自治体の手続きを電子化するという壮大な目的で始まったものでした。それなりのベンダーを集めて検討や会議を繰り返しました。20年経ったいま、出来上がっているのは、自治体にも利用者にも大きな負担を強いるものです。利便性を訴求できていません。地方自治体の効率化どころか余計な作業が増えています。予算もさらに増やさなければなりません。運用はアナログな部分が相当にありますので、このままでは、インシデントが起きる可能性も大きいのです。
かつて、NTTは早い時期に電話事業からインターネットへと大きく舵を切りました。もし彼らが、今でも電話事業にあぐらをかき、あまつさえ、インターネットの普及を邪魔していたとしたら、どんな事になっていたでしょうか。日本はもっと酷い状況になっていたでしょう。
今でも衰退しつつある分野にしがみついている企業が、日本には多くあります。それが日本の発展を阻害しているのです。自ら変われないのであれば、潰れてもらうしかありません。
世の中には、「世界をより良くしていこう」「日々の暮らしを豊かにしていこう」と考える者と、「流れに身を任せたまま何もせずに過ごそう」と考える者とがいます。日本人は後者です。考えないで済むのなら、無駄な労働もいといません。それでいてカネと地位には執着するのです。
彼らは理想を頭に描くことができず、現世的な利益を求めて動きます。それが、あらゆる問題の根本にあります。情報通信技術は、頭に描いたイメージを手早く実現できる便利なツールなのです。
けれども、イメージがなければ無用の長物です。こう考えると、日本人が数十年をかけて何も生み出せないのも道理といえるでしょう。