ベートーヴェンのピアノソナタ31番(作品110)は、荘厳な美しさを持ちながらも甘美で幻想的な部分や、さらにユーモラスな所もある、ベートーヴェンらしさが溢れた最後のピアノソナタとも言える完成された作品です。
第1楽章は歌うように、語りかけるように演奏される、親しい人に向けられたかのような美しくロマンチックな曲調です。第2楽章はCMで使われたこともあるユーモラスでありながらも激しい所がある短い楽章、最後の第3楽章は長いアダージョの部分と、幻想的で情熱的なフーガの部分とに分けられます。
第1楽章(0:48から7:16)
第2楽章(7:19から9:20)
第3楽章のアダージョ部分(9:23から13:05)
第3楽章のフーガ・アレグロ部分(13:07から19:50)
第1楽章は一応ソナタ形式ですが、展開部が非常に短くシンプルな為、大きく2つの部分に分けて、最後にコーダが付く構造と考えたほうが捉えやすいかもしれません。
つまり、0:48から3:04までが1つめの部分(提示部)、3:04から6:32までが2つめ(展開部と再現部)、6:32から7:16がコーダといった感じです。とりとめもなく次々と美しい旋律が現れますが、そのどれもが印象的です。
2:12のトリルからゆったりと高まっていく胸の高鳴りのような部分はこの楽章のハイライトのひとつです。3:04から展開部に入りますが左手で演奏される不気味な音の動きが印象的です。3:49のトリルから曲調が明るくなり再現部へと移っていきます。
第3楽章のFuga. Allegro, ma non troppoは、フーガの壮麗さとベートーヴェンらしい情熱性を備えた幻想的な美しい曲で、ベートーヴェンの書いたもっとも魅力的なフーガのひとつかもしれません。
このフーガは第一楽章の冒頭部分を抽出したものから出来ています。
13:07からですが、17:30のクレッシェンドで再び始まるフーガは18:55で力強くクライマックスを迎えます。このピアノ・ソナタでもっとも盛り上がる箇所です。そしてさらに煌びやかさと情熱を増し加えていって劇的にこの曲を終了します。
名演は数多いですが、エレーヌ・グリモーの繊細で美しく、力強い演奏をここでは挙げてみます。