1969年2月24日のロイヤル・アルバート・ホールで収録された曲です。ジミ・ヘンドリックスが不慮の事故で亡くなったのは1970年の9月です。あのウッドストックのコンサートは1969年の6月でした。このコンサートはイギリスでの最後の公演となりました。
ロイヤル・アルバート・ホールでの演奏はいくつかの名演を生み出しています。特に「リトル・ウイング」と本曲です。録音も良いほうです。もともとこの公演の様子を映画とレコードにする計画がありました。しかしながら映像の方は保存状態が悪く正式にリリースされた事はありません。海賊版を時々動画で見ることができるだけです。録音の方もジミの生前に発表はされず、権利関係で揉めてだいぶ時間が経ってから部分的に発表されています。
「ヴゥードゥ・チャイルド(スライト・リターン)」はジミの代表曲のひとつです。ジミの最初の歌が終わった後は、ギターの変奏が続きます。2〜4小節の短いギターソロを重ねて盛り上げてゆき、やがてクライマックスへと至ります。
演奏もさることながら、この曲では多彩な音色を楽しむことができます。エフェクターはファズフェイスとワウ・ペダルのみですが、ギターのピックアップを切り替えたり、ピッキングの位置を変えたりして様々な音を引き出しています。
ワウをトゥー側に踏み込んだ高域から、ヒール側で踏み込み同時に右手でミュートをして出す低域へ、あるいは歪んだ音からクリーンな音までいろいろです。グリッサンド、フィードバックやアーミングも実に効果的かつ音楽的に使われています。
ジミの演奏は楽譜にするとそれ程難しくはないように見えるのですが、実際に音を聴いてみると、まったく違います。楽器ではなく、生き物が吠えて語りかけているようです。このように楽器を奏でられる人は滅多にいません。
よく速弾きやミスの無さを、演奏の上手さと勘違いしている人がいますが、それは違います。いかに人の心を揺さぶる音と表現を備えているかで評価されるべきです。
ギターは、アンプやエフェクターにより音を歪ませる事で、長いサスティンを得ることができるようになりました。バイオリンやチェロに匹敵するような表現力が可能となったのです。チェロやバイオリンの弦楽器奏者も含めてみても、ジミの音と表現力の素晴らしさは抜きん出ています。