紗良オットさんによる、バッハのハ長調前奏曲です。弦とハンマーの間に不織布のようなものを掛けたアップライトピアノで新しい響きに挑戦しています。
過去にも巨匠が、ヤマハのピアノで平均律全集かゴルドベルク変奏曲集を録音した事がありました。ダイナミクスに乏しく音色が均一であまり響かないピアノの方がこういった曲には合っているのかもしれません。
この曲集では24の調それぞれに前奏曲とフーガが用意されています。冒頭を飾るハ長調のプレリュードは誰しもが何処かで聴いた事があるはずです。ただ弾くだけであれば誰でも可能な曲ですが、とても奥深い音楽です。
19世紀の職業指揮者の先駆けであるハンスフォンビューローが、平均律曲集をピアノの「旧約聖書」と呼んだことは有名です(新約聖書はベートーヴェンのピアノソナタ)。もしも仮にバッハとベートーヴェンが居なかったとしたら、西洋クラシック音楽は今のような深淵さを獲得することが出来ず、ヨハン・シュトラウスのようなポップで軽薄なものに終わっていたかもしれません。