マシュー・マコノヒーが冴えないオッサンを演じている、映画「ゴールド」は貴金属を探し当てる山師の物語です。1980年代の実話を基にしています。落ちぶれた山師である主人公は、伝説の鉱山技術者を追い求めてインドネシアまで行き、その場でナプキンにサインし契約を交わします。
採掘したサンプルを解析し良いデータが得られると、それまで誰にも相手にされなかったのに、匂いを嗅ぎつけた人々が寄ってきます。誰もが投資をしたいと述べ、ニューヨークの投資銀行までが彼への出資を言い出します。株を公開すると株価もうなぎ登りです。
「ゴールドが採れそうだ」という話だけで、夢見る人たちがカネを持ってきます。夢を熱く語る山師、そして夢を実現化してくれる技術者という最高のコンビだからです。ただしその技術者が詐欺師ということもあり得ます。
投資銀行からの「一生困らないカネをやるから実務から手を引け」という紳士的な申し出を断った主人公は、軍隊によって採掘権まで奪われ、全てを失いかけます。世界はルールに基づいて動いていますが、ある一線を超えてしまうと、問答無用の暴力によって動くのです。
「カンパニー」というドラマの中で、「株式会社は人類の偉大な発明のひとつだ」という台詞が在りました。投資したカネを失うリスクはありますが、それ以上の責任はなく、夢が現実化すれば皆で儲けることが出来ます。
確実な事しか言わない人間だらけでは、何も生み出されません。山師的な人間も必要です。山師と詐欺師は異なります。体制が据えた詐欺師は危険です。しかし見分けるのは困難です。映画の中では、コロンブスがいかに「ゴールド」をちらつかせてスペイン女王を説得したかというエピソードが紹介されます。今に伝えられる数々の英雄の伝記は、山師的なカンと押しの強さ、幸運、脚色された神話を伝えるものです。
「みなさん、死にたくなかったら、これを買って飲みなさぁーい!」とは、また何とつまらない世界でしょうか。夢が萎えた世界は人類の退歩を示すものです。希望がなければ、人々は消費を控え子供を諦め冒険する者もいなくなります。夢を作り出すのも重要な仕事のひとつです。例えフィクションであっても…。