「レッド・ファミリー」という映画があります。数々の映画賞を授かってきたキム・ギドクによる脚本、総指揮です。北の工作員として家族を演じながら南で活動する人々を描いた物語です。
スパイといっても007のような派手な行動はありません。サラリーマンのように日々淡々と命令に従い、軍事基地の写真を撮ったり、脱北者を始末しているのです。単身赴任で、何十年も肉親に会っていない人も居ます。「家族」として生活を共にする仲間でも、密告される恐れがあるので、疑いを持たれるような行為は慎まなければなりません。彼らを盗聴し監視する別のグループも居ます。
こんな生活がずっと続いていますが、愚痴や不満を漏らす事も叶わないのです。そもそも彼らは、自国の体制に何ら疑いを持たず、将軍様に対して変わらぬ忠誠と尊敬の念を抱いています。こういった所は、日本と本当に良く似ています。しかしながら感情が豊かな分、より人間らしく見えます。
失敗を避け、従順に上司の命に従っていた彼らですが、同情心を抱き、忖度をし過ぎたが為に、過酷な運命に見舞われます。たった一回、自分で判断したが故に、人生が大きく狂っていくのです。そんな彼らをよそに、周りで生活する人々の日常は何事も無かったかように続いていきます。現代日本の社会体制を思い浮かべながら鑑賞すると、何かしら得るものがあるかもしれません。当事者にとっては悲劇でも、別の視点から見れば喜劇と成ってしまうのです。