我々が認識できるものの中で最大の謎は自身の存在です。自分の見ているもの感じているもの全てが幻想であるとしても、自分の存在は否定しようがありません。
人間がどうやって存在するに至ったかという謎は計り知れませんが、ひょとしたら現在の人間の姿は激変する地球環境に応じて自分自身を作り変えてきた結果なのかもしれません。
地球が住めなくなりそうだとしても他の恒星系への移住は容易なものではありませんし、そもそも人間が住める星がこの宇宙に存在するのかどうかさえ不明です。ひとつひとつ探していけばそのうち見つかるだろうでは話になりません。
もし亜光速船やスターゲートといった夢のような移動手段が発明(永遠に無理かもしれませんが)される前に、地球や火星、さらには太陽系にまで影響が及ぶような大変動が起こったらどうするのでしょうか。それは遠い未来の話ではなく、明日にだって起こりえるのです。スペースコロニーや堅牢な地下シェルターを作ったところで何世紀も生き延びられるものではありません。
それならば我々自身を環境に適応できるように作り変える方が手っ取り早いかもしれません。精神転送や機械の体でしょうか? しかし機械というものは電磁波や水、温度の激変で簡単に壊れてしまう非常にもろいものです。
古代遺跡のレリーフには半人半獣の奇妙な姿が見られたりします。それは人間を創ったどこかの星の住人ではなく、人間自身の太古の姿だったのかもしれません。それら異形の者たちは来るべき長期の災害を前にして、生き延びられるように人間を含めた多様な生命体の基を形作り、雄と雌が本能に導かれ交尾を繰り返すことによって多様な遺伝子をもった存在が生まれ、それらは餌や縄張りを求めて争い、環境に適応するものが現代に至るまで生き残ってきたというわけです。
しかしそれなら何故、彼らは人間をもっと知的に特化した完璧な生命体にしなかったのでしょうか。恐らく低級な生き物だから却って様々な環境リスクから生き延びられてこられたのではないでしょうか。さらに言うと人間は最初から選ばれた存在だったのではなく、単なる候補のひとつに過ぎなかったのかもしれません。昆虫や爬虫類も言葉を持たないだけで、彼ら独自のコミュニケーション方法があり、また世代の記憶を彼らなりのやり方で引き継いでいるのかもしれず、環境によっては恐竜が地球の支配者になったかもしれないし、ゴキブリが地球を引き継ぐ可能性もあります。人間が特化した文明を築き上げてしまったのは、むしろ危うい事かもしれません。
結局、彼らが永らえさせたかったのは生命それ自体であり、人が思い描くような高度な文明等はさして重要ではなかったのかもしれません。文明や文化などはまたいずれ再建される、しかし生命というかけがいのないものを存続させようという、強い意志による最大の遺産が、DNAにより司られた一見脆いように見える地球上の多様な有機生命体だったのかもしれません。