日本人は科学に騙されやすい人達です。アインシュタインを神のようにあがめたり、カミオカンデを神殿のように見たり、国産ロケットごときで大騒ぎしたり、CERNの加速器を必要以上に畏れたり、科学をまるで宗教のように捉えている人が多いように思われます。
だからなのでしょうか、単に特許利権の争いに過ぎなかったSTAP細胞を巡る騒動で陰謀と騒ぎ出したり、スパコン詐欺疑惑でも愛国的技術者が潰されてしまうと騒ぐ人達が現れています。
確かに科学の世界にも宗教的な要素を見つけることができます。助成金を獲得したやり方が本当に詐欺と言えるのか、出来がったスパコンがいかほどのものか、彼の持つビジョンが妥当なものか、政治との絡みはどうなのか、ということは別にして考えてみたいと思います。
コネや学歴の足りない者が、多くの人々を心酔させてカネを集めるには、単にプレゼンテーションが巧みだとか、口達者で詐欺師的な素養があったりするだけでは不十分で、カリスマ性を身にまとった宗教的な要素が必要です。
ここで宗教的要素といっているのは、現実とはかけ離れた夢のような未来を語り、それがあたかも、あと一歩で手に入るという幻想を人々に与える技術を持っていることです。裏付けとして、分かりやすい教義の存在も必要です。
「シンギュラリティ」というレイ・カーツワイルから借りた教義を使って「フリーエネルギー」、「不老不死」、「人工光合成」、「瑞穂の国を世界中に伝播」など夢のような話を熱意をもって語り、それが数十年もしないうちに訪れる、そしてそれはひたすら高速のスパコン開発によって到達できるという単純さと分かりやすさ、こういった「教え」を本にして出版したり、メディアに取り上げてもらうことで大衆の耳目を集め、熱心な信者を獲得できるのです。
そしてさらに脅威を及ぼす「敵」の存在が必要です。早くしないと中国に追い抜かれる、「2番では絶対ダメ」という脅威論が信者たちの熱意をいっそう高めるのです。科学者である前にカリスマであることが、ここまでのし上がった理由のひとつかもしれません。
しかし内閣府の審議会で上のようなことを力説してしまったのは拙かったと思います。役人は「こいつは○○なのかも」と思ったかもしれません。一般大衆向けの対談会ではないのですから、役人のシナリオ通りに無難な事を言っておくべきでした。悪事を共有できる仲間と思われるか、さもなければ、役人の手のひらの上で大人しく踊っているべきだったのです。
この国は天才など一切必要としていません。役人から見たら馬鹿と同じです。ごく少数の「優秀な」詐欺師と愚鈍な大衆がいれば良いのです。