エドガー・アラン・ポーは怪奇小説や推理小説だけでなく、詩のように美しい短編も残しており、この「エレオノーラ("Eleonora")」は、幻想的な内容ですが、彼独特の表現による至高の恋愛小説と言えるかもしれません。特に心境の変化に伴い、自然が変化していく耽美的な描写は際立っています。
"I am come of a race noted for " で始まる力強い冒頭で、まず自分が何者であるのかを説明しています。
"Men have called me mad;"、"We will say, then, that I am mad." と自身について「狂人」という言葉が、2つの段落で繰り返されます。
しかし病める思考によって普通の人には想像することも出来ない多くのものを見ることができ、学ぶことができるという説明を様々な表現で行っています。
"they learn something of the wisdom which is of good, and more of the mere knowledge which is of evil."
短編にしてはかなり長い冒頭部分が終わり、ようやく、夢のように過ぎ去ったエレオノーラの回想に入ります。閉ざされた谷に住む、彼らの出逢いによって、自然が美しく変化していく様子が、時に彼女を比喩に用いながら詩的に表現されています。
"A change fell upon all things."
"its exceeding beauty spoke to our hearts in loud tones, of the love and of the glory of God."
"there crept out a narrow and deep river, brighter than all save the eyes of Eleonora;"
"Their mark was speckled with the vivid alternate splendor of ebony and silver, and was smoother than all save the cheeks of Eleonora;"
"into a lulling melody more divine than that of the harp of Aeolus-sweeter than all save the voice of Eleonora."
"The loveliness of Eleonora was that of the Seraphim;"
この小説の語り手は、彼女に対して、決して他の女性とは結婚しないという誓いを立て、もしその約束を違えるようであれば自身に恐ろしい呪いが降りかかるように、この宇宙を統べる偉大な支配者に願い出ます。
しかし、やがてエレオノーラとの別離によって、美しかった谷間に第2の変化が生じ、最初の変化とは対照的な描写が行われます。
"but a second change had come upon all things."
"And the lulling melody that had been softer than the wind-harp of Aeolus, and more divine than all save the voice of Eleonora, it died little by little away,"
"I feel that a shadow gathers over my brain, and I mistrust the perfect sanity of the record."
語り手は、思い出を忘れる為に見知らぬ町を訪れますが、そこで知り合った、第2の女性、アーメンガード("Ermengarde")に、自分への呪いも忘れて夢中となり、その素晴らしさがエレオノーラと比較した形で描写されます。
"What, indeed, was my passion for the young girl of the valley in comparison with the fervor, and the delirium, and the spirit-lifting ecstasy of adoration with which I poured out my whole soul in tears at the feet of the ethereal Ermengarde?—Oh, bright was the seraph Ermengarde!"
そしてこの短編は、「安らかに眠れ("Sleep in peace!")」という言葉で終わります。
エレオノーラは従妹という設定であり、1842年に発表されたこの作品は、1833年にポーと結婚し1847年に死別した、ヴァージニア・クレム("Virginia Eliza Clemm Poe")を思わせるような部分もあります。冷静で論理的な語りと、耽美的で詩的な表現が入り混じったポーらしい作品です。
("Eleonora Edgar Allan Poe"で検索すると原文を読む事ができます。)