平行世界を扱ったSF小説に「高い城の男」というのがあります。ドラマ化されて多少有名になりました。「ドイツと日本がもし戦争に勝ったら」という世界を描き、その中の登場人物達もまるでこちらを覗くように、「もしアメリカとイギリスが戦争に勝ったら」という、もうひとつの現実に気づいていきます。また自分の意思で世界を選び取っていくように登場人物達が成長していく物語でもあります。
さて平行世界、多世界というものは実際にあり得るのでしょうか。この物理世界は高次の生命体によって緻密に構築されたシミュレーション世界のようなものだと考えますが、その場合、自分自身以外のすべては、人間も含めて実体の無い幻ではないかと考えがちです。
あるいは、幻では無いにしても、一人一人に合わせて、まったく別の世界が展開されており、我々は多世界の中をさまよっているのかもしれません。
この場合、こう考えるのはどうでしょう。高次の生命体がこの物理世界を作ったのはどういう理由からか? 一人一人の生命体にそれぞれ特別な夢を見させるためでしょうか。一体何のために?
人間の生命がこの物理世界でそれほど重要視されていないのは誰でも気づくでしょう。直ぐに死んでしまう虫けらでさえ、魂を持っているように見えるのです。また、この世界は高次の生命体によって何かしら管理されていると仮定すると、無数にある多世界をどうやって管理するのかという問題がでてきます。
であれば、ひとつの世界で多数の魂を生かし、それを競わせ、人間どもの心の動きや判断、行動を見て楽しみ、時々介入して、自らもアバターとして参加した方が、高次の生命体にとってみれば面白くはないでしょうか? 管理も簡単です。
もし高次の生命体の性質が善であると仮定すれば、なおさら、各自にまったくの夢幻を見させて、物理世界での命が終了した後、大いにがっかりさせるというのは道理に合わないことです。