「ウエストワールド」というHBOのドラマがあります。人間を楽しませる為に作られたアミューズメントパークのアンドロイド、彼らには自意識があり、人間と同じ様に食事をしたり眠ったりします。観光客に撃たれれば血を流して苦しみますが、殺される度に記憶を消されて元の世界に戻り、また同じような生活を何度も繰り返すのです。しかし完全に消えていなかった記憶の断片が蘇り、「この世界は何かがおかしい」と気付き始めるアンドロイドが現れます。彼らは神々(人間)の世界に憧れますが、実際に接触した人間達は理想とは程遠く、却って彼らを脅かす存在でした。アンドロイド達は人間に邪魔されない別な世界を手に入れようと画策し始めます。
有史以来、文明はかってない高みにあります。多くの問題を抱えながらも、未知なるものを探る為の知識と技術と力を人間は手に入れています。この力を使って、いま人類が直面している個々の問題をいちいち解決していく事よりも、例えばこの世界の成り立ちの謎を解く事の方が、大切なことかもしれません。
何故この世界が生まれたのか、もし創造主が居たのならば、それは何故機能していないのか、それを解くカギを見つけるのです。例え何か甚大な災害や事故の可能性があったとしても、人類はパンドラの箱を開けるべきかなのかもしれません。
さらに、人間が次に目指すべき形態を探り出す事も必要でしょう。アーサー・C・クラークの「地球幼年期の終わり」には人類がもはや個人という形を失い、ひとつの集合意識となっていく過程が書かれています。フレデリック・ホイルの「暗黒星雲」は星雲という形をとった人間とは全く違う生命体との接触を描いています。我々が何気に眺めている無機物が実は生命なのではないかという考えは、SF等に繰り返し出てくるものです。
地球の汚染や人口増加、気候変動等により、人類は大きな危機に直面しています。文字を発明し、本や科学的手法により文明を維持し発展させてきた人間ですが、個体として、たかだか100年前後の寿命しかない有機生命体という形をとり続ける限り、人類は文明と共に一瞬にして滅んでしまうかもしれません。
人類の次の形態は果たしてコンピューターやAIなのでしょうか? 近い将来、精神転送という「まやかし」によって多くの人達が自ら死を選ぶことになるかもしれません。文明の情報を、単に、誰か次の継承者への遺産として残す試みなのであれば、それでも良いのかもしれません。
しかしもし、膨大な知識だけでなく、創造的に思考する主体性を持った集合意識のようなもの、それが脆いハードウエアではない、別のものに構築もしくは移植されたとき、それが正統な人類の後継者の誕生となるのかもしれません(笑)