人間というのは、実は、自分の「今」の行動を左右することはできません。生理学者、ベンジャミン・リベットの実験の知見がそれを示しています。人の行動は自身が意識する0.5秒前に無意識のうちに始まってしまっており、自己はそれを追認しているに過ぎないのです。
自分の思考も、己が意図して行っているように感じますが、多くは「自動思考」(Automatic Thinking)に過ぎません。会話する時を考えてみてください。スラスラ喋れるのは自分の意志が介入していないときです。いちいち意志が邪魔したら、それは吃音症という障害となり、上手く会話することができなくなります。行動と同じく、思考や感情も、自分の意志によって起動されているのではなく、我々は追認しているだけなのです。
追認とは言っても、自分の「いま」の行為(実は0.5秒前ですが)を常に注意深く観察している必要があります。集中はするが、余計なことはしないという意味です。「今」に集中するのは、自分の思考、感情、行動が好き勝手なことをしないための監視をするためであり、そのために、次に述べるような「是非」の判定を行います。
自己は、自分の「過去」の思考や行動、感情に対し、「是」とするか、「否」とするかによって、自分の「未来」の思考、行動、感情に影響を及ぼせます。直接それらを左右し決定することは出来ないのですが、自分の意図した方向への蓋然性を高めることができるのです。簡単に言えば、常日頃の自分の考えが、自分の「行動」を決めていくのです。自己は、自由意志のまったく無い、ただの観察者ではないのです。
「思考は現実になる」とか、言霊だとか、ポジティブシンキングとか、「事故を見ると自分も事故を起こしてしまう」とか、「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいのだ」という考えは、意志と、思考、感情、行動との間の上のような関係について、直観的に気づいた人々が述べてきたことです。
さて、洗脳というのは自己を麻痺させることを狙ったものです。多くの知覚刺激や情報を与えられることによって、人は他人によって作られた思考、感情に流され、自分の意志による判定を行うことも出来なくなっていきます。そうすると、自分の考えや感情の様に思っていても、実はそのほとんどは他人によって植え付けられたものとなり、さらに、それらが自分の行動を左右します。つまり、己自身に変わり、洗脳者があなたの行動を支配するようになるわけです。