ベイズ推定の偽陽性の具体例は、我々の生活にいろいろと見出すことができます。誰もが恩恵を受けている予防接種や病気の診断から、その例を見てみましょう。
【ワクチンの副作用】
ある製薬メーカーが、性関係を持つことで発生する、(例えば女性における子宮頸がんのような)ある種の癌の予防として効く、画期的なワクチンを開発したとします。そのワクチンは100%、その感染を予防できるとします。しかし、10%の確率で、重大な副作用、例えば生殖能力を失って子供が出来なくなるとします。
性関係の有無を度外視して、このウイルスの、ある世代における感染率は10%であるとし、いったん感染したら100%の確率で癌を発症するものとしましょう。
すると、予防接種を受けた100人のうち、実際に感染した10人が癌予防の恩恵を受けますが、その代わり誰か10人が、子供の出来ない体になります。
100人ならまだしもですが、次のような事態になったらどうでしょうか。政府がこのワクチンの効用を大々的に宣伝し、20歳から35歳までの15世代の日本人に、無料で全員に、このワクチンを受けさせるとします。1世代、約100万人として、1500万人がワクチンを接種することになります。先ほどの前提で行きますと、10%の150万人が生殖能力を失うことになります。
もし仮に、このようなワクチンが存在したとしたら恐ろしい話ですね(笑)
【ダウン症診断】
従来の羊水検査に代わり、ダウン症などを出産前に判断できる血液検査方法が開発されています。診断の正確さは99%とのことです。一方、40歳の妊婦のうち、お腹の胎児がダウン症である可能性は1%だそうです。
上の仮定をもとにして、40歳の妊婦が血液検査で陽性と診断されたら、どのように判断したらいいでしょうか。
計算過程は省きますが、この場合の診断の正確さは、50%になります。99%の診断精度と言われても、1回の検査で判断し堕胎してしまうのは、まったく賢明ではないのです。検査は何回か受けることによって、ようやく精度が上がっていくのです。
このように稀な病気を、100%正確とは言えない(どれもそうです)検査で診断することや、100%安全とは言えない薬で治癒するのは、比較的大きなリスクが存在するというのを、一般の人はよく理解しておくべきです。医療機関はカネが第一であり、人命第一ではないのですから。