これは天地創造の前に行われたある会話の物語。
ルシファー: 「我々は今まで様々なもの創り上げてきた。そしてそのどれもが美しく完璧な出来栄えだった。」
御使いA: 「おっしゃる通りです。」
ルシファー: 「私は今度はあえて、不完全な世界、新しいものが生まれると同時に、古いものは滅んでいく世界を作りたいと思っている。善と同時に悪も存在する世界だ。善と悪との戦いがあり、激しい戦いを経て善が勝利する。進歩もあれば、退歩もある。美しいものもあれば醜いものもある。そういう世界だ。」
御使いA: 「言っている意図がよく分かりかねますが…。」
ルシファー: 「我々が創造されてから、どのくらいの出来事が起こったか分かるか? 我々がしてきた事を振り返ってみよ。実に退屈ではないか。望めば何でも完全なものが手に入る世界、そして時間の観念も無く、悠久の時を過ごさねばならぬ我々の定め、それを考えてみよ。私はこの退屈な世界を抜けて、自分が理想とする、常に変化し続けていく新しい世界の支配者となりたいのだ。」
御使いA: 「我々が経験してきたものとは全く違う、新しい世界ですね。確かにそれは楽しいかもしれません。」
ルシファー: 「その世界で、我々の姿に似せた『人間』という新しい生命体を造ろう。その世界ではあらゆるものが時と共に崩壊していき、それと同時に新しいものを人間達は作り続けていかなければならない。さらに規則正しい時間を作ろう。天にある太陽や月、星が正確に時を刻み、人間達はそれに従って生きていくのだ。彼らを忙しく働かせよう。我々が退屈せぬように。彼らの姿を見て、我々が楽しめるように。」
御使いA: 「しかし、そのような世界の創造を神が許されるとは思えませんが。」
ルシファー: 「まずは我々の世界に似せた完全な仮想世界の創造をすると言って、神には奏上する。その後、『人間』にあえて悪を行わせる。その罰として、時と共に徐々に崩壊し、規則正しい時間が支配する世界に変えるのだ。人間にはあえて完全な能力を持たせないでおく。彼らは一生懸命に努力する事によって、その能力を発展させていくのだ。そしてこの世界に獰猛な獣や恐竜、敵対する人間どもを置き、さらには嵐や津波、雷や地震などを起こして、彼らにこの野蛮な地を暴力や闘争によって支配するという使命を与えようと思う。」
御使いA:「この平穏な天界とは似ても似つかない世界です。本当にそんなものがずっと許されるのでしょうか。」
ルシファー: 「まあ見ているが良い。この天地創造の計画に、ほとんどの御使い達は賛同し、神もそれを許可するであろう。そして私はゆくゆくは天界をも支配し、私が理想とする世界に変えていくつもりだ。」
神は言われた。「我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう。そして海の魚、空の鳥、家畜、地の獣、地を這うものすべてを支配させよう。」(創世記1:26)